〈紅麴問題〉機能性表示食品に山積する不適切な根拠論文-薬理学者だけが知る真の理由―
問題を解決する方法
23年に消費者庁は「届出表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている」として措置命令を出した。これは届出論文の質に対する社会の批判への答えの一つと考えられる。 消費者庁はこの問題をもう一つの方法で解決しようとしているように見える。それは統計の不適切な使用を黙認することである。 具体的には、プラセボ群と試験群の群間差は、本来であれば測定後値を比較することで行う。ところが消費者庁の届出資料の書式では、両群の前後差の比較で群間差を得るという禁じ手を許容している。そのような手法を使わなければ有意差を得ることが困難な場合があるためと推測される。もちろんこの2つの対策は矛盾するものであり、これらによる問題の根本的な解決は不可能である。
この問題の解決策は国際的な医薬品試験基準に盛り込まれ、これに基づいて厚生労働省は『「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について』と題する課長通知を発出し、概略次のように述べている 。 「薬剤の効果があるか否かは、ある程度まで判断の問題である。薬剤の効果はプラセボ対照試験から明らかであることもあれば、疾病を治療した場合と治療しなかった場合の比較から明らかなこともある。しかし有効と考えられている薬剤がプラセボ対照に優ることを示すことができないような疾患は数多く存在する。そのような例としては、うつ病、不安神経症、痴呆、狭心症、症候性うっ血性心不全、季節性アレルギー、症候性逆流性食道疾患のように、プラセボ群で大きな改善や変動が認められたり、治療効果が小さかったり大きくばらつくようなものが挙げられる。これら全てにおいて、標準治療が有効であることは疑いない。なぜならその効果を支持する数多くの対照試験があるからである。しかし、これまでの経験から、その薬剤の効果を決定する試験条件を記述することは困難であろう」 要するにプラセボ対照試験が使えない症状があること、そのような場合には別の方法を使って判断すべきという常識的な対策を述べたものであり、プラセボ対照試験の義務化を求めてはいない。実は機能性表示食品ガイドラインでもプラセボ対照試験以外の試験法を許容しているのだが、なぜか質疑応答集の問45でプラセボ対照試験を義務化し 、このことが極めて大きな混乱を引き起こしている。