ブシロードの出版会社が本格始動!『魔法使いの嫁』移籍&16本もの新連載を引っ提げ、新たなWebマガジンを立ち上げる ― 『ガンガン』や『アフタヌーン』が好きな人な人はぜひ
TCG「カードファイト!! ヴァンガード」や「新日本プロレスリング」などを展開するブシロードが、漫画を作っていることをご存じだろうか。 『ブシロードワークス』画像・動画ギャラリー 出版機能自体は10年前の『月刊ブシロード』創刊の時からあり、多くのブシロード関連作品のコミカライズを手掛けてきた。 昨年までグループ内においても一部門に過ぎなかったのだが、なんと同社は出版機能をブシロードワークスとして2023年7月独立させ、新たな出版会社を設立させたのだ。 同社の代表取締役・編集長には、『魔法使いの嫁』や『とつくにの少女』を立ち上げた編集者・新福恭平氏が就任。またブシロードといえば、2022年11月に、『ドラゴンボール』などを手掛けた『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦氏を社外取締役に迎えている。 さらに興味深いことに、ブシロードのWeb漫画媒体『コミックブシロードWEB』が今回のブシロードワークスの設立に伴い、「コミックグロウル」としてリニューアル。従来のブシロード作品のコミカライズではなく、オリジナル作品を世に打ち出していく体制が着々と進んでおり、2024年春より、16作品もの新作が順次連載されている。 また、2023年12月に発表され大きな話題となったが、『魔法使いの嫁』がこの「コミックグロウル」に移籍することも発表されている。媒体のリニューアルは2023年12月21日に行われ、同日22:30から『魔法使いの嫁』の新章がスタートする。 となると、当然気になるのは、なぜブシロードが出版会社を始めるのか、ということだ。そこで電ファミニコゲーマーでは、新福氏にインタビューを実施した。 『月刊少年ガンガン』で育ったという新福氏の来歴はもちろん、今後の漫画の作り方や売り方、非常に興味深い話を伺った。 聞き手/TAITAI 撮影/佐々木秀二 ■『月刊少年ガンガン』が今の自分を作った ──まずは新福さんのことを簡単に聞かせていただければと思います。 新福氏: 伯父達が、漫画やアニメや映画を収集する“オタク”第一世代のような感じで。幼少期は祖母の家に預けられることが多かったんですが、その際に伯父達の棚いっぱいの漫画やアニメ資産にアクセスできる環境だったんです。 なので、世代ではない作品……『ガンダム』(機動戦士ガンダム)といえば1stから順序よく観て、格好よくて好きだったのは『パトレイバー』。冒険活劇といえば『未来少年コナン』や『名探偵ホームズ』といった感じで、世代的に少しズレた幼少期を過ごして。そのせいで「自分はここからオタクだった」と自覚がないまま、今に至っています。 漫画は伯父達のアーカイブ以外に、自発的に『月刊少年ガンガン』を買うようになったのはきっかけかもしれません。当時の『月刊少年ガンガン』は飯田さん(飯田義弘氏)達が編集していたのですが、彼が作っていったもので自分が出来上がっている感覚はありますね。その後、そこから『月刊アフタヌーン』や『イブニング』といった講談社の青年向けの漫画を志向して行った感じでしょうか。 ──すごくストレートな流れというか、淀みなく……(笑)。そして、その飯田さんが社長を務めるマッグガーデンに入り、『魔法使いの嫁』を立ち上げられたと。一方で、ブシロードワークスはどのようにして立ち上がったんでしょうか。 新福氏: 順を追ってブシロードの出版部門の変遷から説明させてください。始まりは「ケロケロエース」というKADOKAWA刊行の雑誌からですね。この雑誌が休刊する際に、『ヴァンガード』のコミカライズ、この連載媒体を残したいということで、雑誌をお譲りいただくような形で「月刊ブシロード」を創刊したことが始まりと訊いています。それに伴って制作を進める為に出版部門を、ブシロードメディアという子会社に発足させたようです。 そのうえで10年間雑誌と漫画を作ってきたんですが、改めてIPを創出できる環境を作りたい・向き合っていきたいということで、出版機能を単独で分社化することになったんですね。それがブシロードワークスです。 ──新福さんは立ち上げに際して呼ばれた感じですか? 新福氏: そうですね。僕がアサインされている以上いわゆる“出版”に該当する事業を直近では行っていきますが、それだけに限定した会社という定義もしていません。僕はすごく漫画に助けられてきましたが噛み砕いていくと、厳密には “物語に助けられてきた”と思っていて。 なので、物語自体をどうやって物語っていくかは限定して考える必要はないなと……それは別に紙でも良いし、歌でも良い。そしてゲームでも良い。 そういう意味では、作家さんと一番近い距離に居られる人間を育てる、そういう人間が集まった会社にしたいなと思っています。 ──なるほど。 新福氏: 後、業界の中にたくさん出版社があるというのは、多様性を維持するという意味では非常に良いことだと思っていて。新しい資本が投下されて作家さんにとって悪いことはあまり無いというのもありますが(笑)。真面目な話、ここ最近、すべてが大きいものに吸収されていく流れがあってそれってどうなんだろうなと。それによって多様性が残れば構わないんですが、基本的にはそうならないでしょう。なぜなら、各社に“編集方針“とそれに紐付く成功体験があるから。 僕は、漫画は「もう生きたくない」「学校や集団が辛い」と思ってるひと達が「次も読みたいから仕方ない。来月まで生きるか。」と思って貰う為に送り出したいと思っています。漫画は、明日誰かをサバイブさせるものと。言いかえるとマイノリティのために作ってきました。 本来、漫画は多くのひとに安価で提供する作りになっているので、マジョリティのために作らなきゃいけない商売なのかもしれないんですが、でもマイノリティのために作ったものがメジャーなものになるのも漫画だったんですよね。 そういう作り方って、大きな会社だけになった時に出来るのかなと。端的にいうと『魔法使いの嫁』が当時のマッグガーデン以外で出たのか?というところです。大きな版元の賞にも引っ掛からない作品が1000万部出すことがあった訳ですから。新しくできた弊社もそういった部分を担っていければと思っています。 ■配信プラットフォームやSNSの時代だからこそ、自分たちの媒体は必要 ──ただ、ここまで漫画の配信プラットフォームとSNSが発展してくると、極論を言うと“漫画媒体”ってなくても成立するわけじゃないですか。そこに対して、新会社を作り、さらに既にある媒体をリニューアルまでするのには、相応の理由があると思うんです。 新福氏: 現在の状態だけでいえば、なくても成立はしますね。ただ、それは今だけかもしれないなとは考えます。未来が不確定である以上、自分たちの考えを発信し、作品を送り出していける場所はしっかりと維持する必要はあるんじゃないかなと。我々が媒体を持つ理由はそこですね。 今日の「正しさ」が明日も同じく正しいとは限らないし、混沌していても自由なものづくりが出来る環境である方が、ひとの感情を動かす作品が生まれやすいのではと個人的には思っているんです。なぜなら人間がそもそも混沌としているので。ルールや道徳を軽視している訳ではありませんが。 ──昔から雑誌は作品を載せる媒体としてあればよくて、雑誌そのもので儲ける必要はないという考え方がずっとあったと思います。とはいえその効率性や雑誌の売上不振に耐えられない点がどんどん大きくなって雑誌が潰れたりして、今があるとは思うのですが……その臨界点というものは超えてしまっている状況なのでしょうか。 新福氏: 漫画に限った話として、臨界点は超えているという言説には首肯します。ただ紙の漫画誌が売上以外に持つ役割は幾つかあって。それらはまだ機能しているように見受けられます。なので、雑誌発の単行本が売れ続けていれば、その機能している役割が売上の為にどれだけ有用かどうか、赤字以上の価値があるかどうかが今の継続判断になっているのかなと思います。 ──いまなお残っている役割には、どのようなものがあるのでしょうか? 新福氏: 雑誌に残った役割のひとつとしては、例えば、身も蓋もないですが原稿を定期回収する装置ですよね(笑)。紙のほうが回収しやすいなと個人的にも感じます。もうひとつが新人作家さんが媒体を選ぶ際の優先順位として。紙の雑誌で掲載されれば、親御さんが安心したり、他人に説明できたりするでしょうから、新しい才能を安心させられる装置としての機能はまだあるんじゃないかなと個人的には思いますね。 ■『魔法使いの嫁』は書店員さんの力によってヒットした ──雑誌が売れていた時代は、雑誌の強さとそこから花開く作品の確率って比例するわけじゃないですか。でも、ある一定の時期からメジャー誌じゃないところからの大ヒット作が目立つようになってきた。近年ヒットしたWeb漫画を見ていても、そういう傾向はあると思うんです。 だから個々の作品の中で飛び抜けて勝ち残ったものがヒットするような、いわゆるゲリラ戦の領域が増えていると思うのですが、そういった環境変化のなかでメジャー誌じゃないところから人気作を作るとはどういうことなのでしょうか。 新福氏: どうでしょう…昔も今もメジャー誌でないところから人気作が生まれるのは外部環境に強く依存しているとは思います。何百万部も毎週刷る雑誌やMAUが1000万超える配信サービス(これは漫画読者としてのMAUになりますが)の元にあれば、後は読者が選んだものが結果売れるものという状態なんだと思います。しかし、マイナー誌や媒体を持たないような編集部発の作品だと外側からの力が大きな力を持つことが多いのではと思います。 手前味噌ですが『魔法使いの嫁』が売れた理由は、ふたつの外部要因がありました。ひとつは、書店員さん方が熱を持って店頭で大きく展開してくれた事。もうひとつは、WEB広告で展開された事です。これは、10年前だからこその両面だったかもしれませんね。 先の質問に、漫画の内容的な意味で答えるなら、咀嚼しやすく飲み込みやすい形に作っていくといった作り方によって人気作は生まれやすくなる可能性はあるでしょうか。この作品が“まさに今この瞬間の私”にとって必要か必要じゃないか、という部分がすごく重要なんだろうなとは感じます。 これが例えば、30ページ以上かけて世界観がしっかり説明されていくような漫画だと、最初に口に入れた瞬間に「咀嚼に時間かかるし、そのコストは重い」という感覚が湧いてしまうのが今なのかなと。 僕はそういう顎が痛くなるような作品が好きなんですが(笑)、何度も再読できる内容が濃い漫画は、今のネット世界では非常に売りにくいし、やりづらいなという感覚はあります。パッと食べてすぐ美味しいと感じられるか、がゲリラ戦という意味では戦い方の一つになっているなと感じます。 ──『魔法使いの嫁』の場合、リアルではくネット上の反響や売れ方はどうだったんでしょうか。 新福氏: 漫画の内容とバナーの印象が全然違うものって昔からよくあったと思うんですが(笑)、まほよめも同じようなケースでネット広告の反響はしっかりありましたよ。序盤のオークションのコマが使われていたんですが、ジャンル的なお約束の「これ知ってるぞ」という感覚と人外との関係という「これ知らないぞ」的な感覚で興味を持って貰えたのかもしれませんね。 ただ、ボリュームとしては、やはり書店員さんの「これはすごく面白いからここで売りたい」というところでの展開力は強かったと思っています。 ──書店員さんの推薦ってまだ残っているんですかね……? 新福氏: 残っていて欲しいなと思います。我々のような小さい版元は、読者に一番近い書店員さんの熱量からヒットが生まれてきたので。僕としては、まだまだ熱量を持ってやっていただけているイメージはあるんですが、それが連鎖して「書店から売れた」ということは漫画だと昨今は聞きにくくなったような感覚はあります。あくまでも僕の観測範囲での話ですが。 ■『週刊少年ジャンプ』で売れている漫画の何が面白いのか分からないという人に来てほしい ──さて、ここからはブシロードワークスについて深堀していければと思います。出版部門のメンバーが中心だと思うんですが、スタッフはどういった方々なんでしょうか? 新福氏: 年齢的には若い人たちが多いですね。元々の出版部門で頑張っていた人たちがメインになっています。今は22名程度なんですが、半分は編集ですね。内訳として情報雑誌を作っている部門もあるので、雑誌編集者と漫画編集で半々ぐらいですね。 ──スタッフは今後増やされていくんですか? 新福氏: そうですね、漫画の編集職と紙・電子ともに営業職は絶賛募集中です。漫画編集は経験者はもちろんですが、「作品と向き合える人間を増やす」という目標もあるので、未経験者も募集しています。編集を育てる=作品と作家を育つという風に直結すると思っているので、積極的にやっていきたいですね。 ただ、それは僕だけでできることではないので、社外に入っている鳥嶋さん(ブシロード社外取締役・鳥嶋和彦氏)や、自分の知り合いである方々にご協力いただきたいなと考えています。 ──こういう人材を求めているとかはあるんでしょうか。 新福氏: うーん…難しい質問ですが「『ジャンプ』で売れている漫画の何が面白いのか分からない」という人に来てほしいです(笑)。正確には「何がどう面白いのか、しっかり頭ではわかっているけど、全く腹落ちしていないし、他の作り方でも面白くなるはず」という風に考えたりしてる方がいれば是非お待ちしております。 ──(笑)。ちなみにそれって好みの話ですか? 新福氏: 好みがないとは言い切れないですが(笑)、どちらかというと適性の話でしょうか。出版は、大手と中小では勝負の土台から大きく違いますから。同じ競技のように見えているかもしれませんが、実際は違う競技だなと個人的には感じるので、メジャー誌に対してカウンター的な考え方が出来る人のほうが我々の戦場には向いているかなと。 ──メジャーではない媒体どう戦うのか。あるいは、大ヒットがまだない新人作家や、才能はあっても癖が強い作家さんをどう扱うか、どのようにポジショニングを取るべきなのかなど、作家さんとの向き合い方も含めてぜひ聞きたいです。 新福氏: 難しい質問ですね……まず我々がやるべきは作家さん方に信頼されることからだと思います。その為の、取り急ぎひとつは経済条件ですよね。昨今は物価の問題もありますので連載は1p最低1万円以上という形で新媒体からベースアップしました。また印税条件も大手と遜色ない状態に。また、WEB特化!という訳でもなく従前通り、紙の単行本をしっかり刊行し、販売も行っています。月ブシ創刊時からKADOKAWAさんと協力し、発売し続けていますし、10年続けてきていますので、継続性では信頼してほしいなと。 その上でどう作家さんと相対するか。僕としてはまだ世に出ない、新しい可能性に賭けるということを後発の企業こそ積極的にしなきゃいけないなと思うんです。そういう意味で目指すものは、新人作家輩出率が業界でもトップクラスに高い雑誌になることかもしれません。「引く手数多」という新人を何人送り出せるかが編集部員の質でもあるかなと。「ここの雑誌って良い新人作家さんがいっぱい出てくるよね」という場所にしたいなと。 ──それは嫌かもしれないけど、巣立っても良いという覚悟はあるということですか? 新福氏: そういう場面に直面した時に、会社や担当編集が最優先に選ばれるべき存在になっているようにする覚悟の方が重要だと思っています。もちろんお金のことや自分が元来憧れている雑誌といった代えがたいものはあると思うんですが、とはいえ、漫画を作るってものすごくハードな作業なので、作品や自分をしっかり理解してくれている人とやりたい、という人も居るかなと。そういった人たちが状況も条件も雰囲気も良いから、残りたいと思われる会社作りをしなければならないのかなと考えています。 逆にそれ以外に一から始める時に戦い方ってあるんでしょうか……? どんなに言葉を飾って威勢の良いことを、こういう場所で言ったところで、ポジショントークは見透かされるだけだろうし。そういう言動はハネますけどある種の前借りで、中長期的には信頼が損なわれるだけな気が個人的にはしています。僕が10年やって感じることは、この道に裏道はないということで遠回りが一番近道である、と個人的には感じます。勿論、何かほかに道はないかと日々模索はしますが。 ■まずは作家の信頼を得る媒体になる ──泥臭いやり方以外だと、何か戦略だったり戦い方で考えられていることはあるんでしょうか。 新福氏: どうでしょう……あってもここでは言い辛いです(笑)。物語を生み出すことが出来る作家さん達と二人三脚が出来ること。最少人数で大きな物語を生むことが出来るということ。僕らが持っている、この強みはもっと活かせる場があるんじゃないかなと考えています。それに向けて、出版以外の取り組みも色々考えていますし、電ファミさんが適している話題になるかもしれませんので、話せる段になったらまた取材をお願いします(笑) ──強みという意味では、ブシロードグループだからこそできることもあるのではないでしょうか。 新福氏: はい、それはあるかと思います。たとえば海外展開でしょうか。ブシロードはアニメエキスポ等の海外イベント出展も非常に積極的に行っていますし、今年はアジア6都市(香港・台北・クアラルンプール・バンコク・シンガポール・ソウル)でBUSHIROAD EXPO ASIAを自社開催し、6都市いずれも盛況でした。今後、作品ができあがった際の出口として、このイベント内から現地のお客様にアクセスしていけることは他の版元にはない強みだと個人的には感じます。アナログに地道な攻め手を作っていく強さがある会社です。 上記のような動きもありますので、外国語への翻訳は連載時よりやることが当然だろうと思っていますね。始めは多少拙くなったとしても広い世界に向けてやっていくべきだろうと。 国内においても、皆さんご存知の通りでブシロードは宣伝力も高いですから、ヒットの予兆が生まれた作品を大きく、ジャンプアップできる力を持っていると思いますね。 ──Webtoonや『ジャンプ+』など。今のトレンドに対して新福さんはどう捉えられているかお聞きしたいです。対抗しようという構図はありますか? 新福氏: ジャンプ+さんについては……すごいですねと(笑)。対抗という軸にはないかなと思いますが、僕らには僕らにしか送り出せない物語があると思っているので、そこはあまり意識していないですね。Webtoonについてですが、届けるものが物語であればなんでもいいと思っているので、Webtoonを作らないぞという意思はないです。ただ、世に放っていく際に、放つ場所が非常に限定的なことや作品売上と広告費の相関関係が気になって前のめりにはなれないですね。もう少し販売できる場所や複数の収益方法が見えてきてほしいな、と小さい我々は思ってしまいますね。弊社はWebtoonスタジオではなく自分たちで出版を行う会社なので、そこに対して全力投球するということでいるという感じです。 ──やらないと決めているわけではなく、当面の間はそういった体制があるわけではないということですか? 新福氏: そうですね。単純にリソースの問題なんです。ただまったく作らないと作り方がわからなくなる訳で、コツコツ作ろうとは思っています。コスト的に会社が傾くほどはやらないように、というだけですね。 ──では、取り急ぎ注力するところはWebコミックですか? 新福氏: そうなります。そのために媒体名もコミックブシロードWEBから「コミックグロウル」にリニューアルしました。 作家さんや読者さんから「ブシロードってオリジナルの漫画が作れる場所なんだっけ?」と見られていると思うので、出来上がったものを見せて「普通に出版社じゃん。面白いのあるじゃん。」とまずは思ってもらう必要があるなと。元々、オリジナルをやらない訳じゃないし、他社のコミカライズもやってるんですけど、強い先入観があるんですよね。弊グループのブランド力が強いが故に、漫画ビジネスとしてはそこが引っ掛っているかもしれないなと。 そういう意味で皆さんの先入観を覆すという点が、一番最初の大きなミッションになった。そこで、何よりも先に掲げる看板名から敢えて「ブシロード」を外すことにしたんです。このまっさらな状況で、他に負けない作品作りができる場であるという証明が大事かなと。 それができない限りは作家さんも集まってこないし、どんなに飛び道具で良いことを言っても、作家さんが我々を信頼してくれない。信頼されないことには始まりません。現時点では、まずそこが他に比べてとても弱いので、まず信頼を得ていきたいですね。そのためにコツコツした努力をやります。 ──読者よりは、まずは作家さんの信頼を得る媒体になることを目指す感覚ですか? 新福氏: いえ、基本的には読者のために作る媒体です。しかし、自分の子供を明日潰れるかわからない学校に預ける親は居ないですよね。だから、この場所は無くならないですよ、ということをきちんと証明するのが何より最初だと思うんです。それはものすごく地味なことだし、あまり大きなことに見えないとは思うんだけれど、それこそが継続して事業を行う為の第一歩であり、必要なことであると僕は認識しています。 ──そのためには良いスタッフも必要になってくると思いますが、何を売り文句に呼び込むのかを語っていただきたいです。 新福氏: 弊社は良くも悪くもスタートアップと同じで、なんでもやらないといけない状態です。なので、“編集者として新しい刺激は欲しいけど、でも作品は今まで通り作りたい”という両方を求める人にとっては面白い仕事だと思いますね。 今このご時世に綺麗な嘘を重ねて新しい方に入っていただいても定着しないので、やること多いのは否定しない(笑)。新しい会社というのは、混沌とするしやっぱり地獄はあるので。ただこの地獄の中でしか体得できないスキルや経験があるのは間違いないです。自分の仕事の質を高めたいひとにとっては、有益で貴重な場所だと思います。そういう意味では、地獄はテンション上がって楽しいな~~ってなる人は是非入ってきてほしい(笑)。 ──ここでいう地獄はどういうイメージで語られていますか? 新福氏: 普段の仕事のルーチンや常識が通用せず、一々道を作らないといけない苦労を“地獄”と呼んでますね。慣れた作業って平和じゃないですか。常にこうなったらこう返って来るという敷かれたレールの上を、非効率だろうと疑問があろうと我慢して歩く。これができないという人にとって地獄はハッピーになるし、対してレールの上を走った方が楽な人にとっては地獄でしょうと。僕は地獄の方が能力も上がるしこの生業に対する解像度が抜群に上がって面白いじゃないかと思っていて。面白くて自分の能力が上がるなら地獄を進んで摂取しに行った方が長い目でみたら良いのではないか、と思っています。 ■バンドをクビになり、すがるような想いで編集者の道へ ──ここからもう少し新福さん自身について、そしてなぜブシロードワークスに在籍することになったのかについて伺って行ければと思います。幼少期の頃のお話は最初にお伺いしましたが、その後、作る側に回ろうみたいな感覚はいつごろ出てきたんですか? 新福氏: 大学生のときに音楽にかぶれまして、同人誌やCDを出したりして、いわゆる「モノをつくる」という行為はやるようになりました。2006年くらいのことです。 ──同人誌というのは、どういったものだったんでしょうか。 新福氏: それこそ二次創作も一次創作もやりましたね。下手くそなりに漫画になっていない漫画を描いてました(笑)。友人と編集と作家みたいな分担で同人誌を作って、即売会に出たこともありましたね。 ──編集と作家、というのは友達が作家で自分は編集ですか? 新福氏: そうですね。スケジュール管理から内容打ち合わせまで真似事みたいなものですが。編集の面白さみたいなものは、ここで少し掴んだんじゃないかと思っています。 ──同人誌とバンドだと、結構振れ幅がありますね。 新福氏: 僕以降の年代だとそこは振れ幅感じないかもしれないです。僕は1987年生まれで今年36歳なんですが、僕らの世代って丁度オタクと一般人が混ざり始めた時代なのかな。振り返ると、オタクカルチャーに触れていない子でも、大学生になるとアニメ自体を特に忌避感なく見ていたりして。類は友を呼ぶという事かもしれないですが(笑)。なので、ライブハウスでも同世代が集まると、音楽の話とアニメ・漫画の話が自然に区別なく出てくる環境で。ふたつが離れている感じはしなかったですね。僕自体もあまり区別をせずにやっていました。 ──なるほど。では音楽の道に進む可能性もあったんですか? 新福氏: むしろ、その頃は音楽の道に進みたいと思っていました。ところが、バンドを「お前、才能ないからやめて就職した方がいい」とクビになりまして(笑)。実際、才能無かったわけでそれ自体には感謝してるんですけれど、当時は「急に言われても」と。それで就職しなきゃなとなったんですけど、ろくに大学いかず遊んでいる奴が簡単に就職できるはずもなく……。ただ、集英社さんだけは良いところまで残してくれたんですよね。 それだけがきっかけでもないんですが、誰にも必要とされてないんだったら自分の好きなことでもやるかと。で「あぁ漫画に人生を賭けるのも面白そうだな」となり、編集者の道に入り込んだ感じですね。 ──ただ、集英社さんに就職されたわけではないんですよね? 新福氏: 勿論、適当に生きてきただけの奴が、受かる訳もなく(笑)。無職のまま、無事大学卒業して。少ししてからかな、縁あって医療系出版社に入り、2年間くらいお仕事をさせてもらいました。 ──なぜ医療系の出版社に入ったのですか? 新福氏: 漫画の編集者って、入り口がすごく狭い業界だったんですよね。基本は経験者の中途採用か、新卒採用。後は編プロさんにアルバイトで入るか。さらに当時はいわゆる就職氷河期だったので、特に狭き門だったように記憶しています。そこに何とか潜り込もうと思ったら「編集経験があります」って言えれば面接までは行けるなという考えで。 ──ということは、最初から漫画編集者になりたいという目標があったんですね。 新福氏: そうですね。ただ、バンドをクビになったことがある種の挫折になっていて、まっすぐに熱い想いや情熱を持って漫画編集者になりたいと思っていたというよりは、捻くれてすがるような思いでやっていた……というほうが正しいかもしれません。だから「俺はできるぞ」みたいなものはないですね。その感覚はずっとそうです。 ■漫画は必需品ではないが、ないと生きていけないという人たちのために作らなくてはならない ──そしてマッグガーデンに移られたと。当時マッグガーデン以外に受けた出版社はありましたか 新福氏: 他は募集もなかったですから、勉強したいと即決しました。なにより、先ほど少しお話した飯田さんが社長なので、編集方針みたいなものはなんとなく“知っているぞ”という感覚もありましたから。 マッグガーデンでは作家引き継ぎしない、自分で一から立ち上げろ。というスパルタな会社だったので、2年くらいは雑用しながら連載会議の壁に立ち向かう日々で……特にこれといった成果もなく。 そうこうしているうちに「お前そろそろ契約期間切れるよ」と言われクビが寒くなってきたなと思っていたタイミングで『魔法使いの嫁』などの連載が決まりました。 ──実際に漫画の編集になってみて、最初にぶち当たった壁だとか悩みみたいなものはありましたか? 新福氏: 基本的に漫画は連載会議を通過しないと連載できないんですが、そこに通らないというのが壁ではありましたね。何度も落ちると、段々と何をどうすればいいのか分からなくなってくるんですよ。何度も会議に付き合ってもらった作家さんから「もうやれないです」と言われることもあり、やはりその時はショックと申し訳なさと…という感じでした。今もその時の申し訳なさがどこにも行けずに残っているような感覚があります。 あと壁らしい壁は、やっぱり雑誌が潰れたことですかね……。作品が売れてもタイミングによっては簡単に潰れるし、自分の居る場所って大したことないというか、薄氷の上に立っているようなもんだな、と解るようになりました。 ──逆に、手応えを得たタイミングはいかがでしょうか。 新福氏: むしろ手応え欲しいですね。ずっと手応えがない(笑)。 ──(笑)。でもそれこそ『魔法使いの嫁』のようにヒット作は突き抜けてるわけじゃないですか。そこで得られた感覚とか、あるいは作家さんとのやり取りで学んだことはあるのではないでしょうか。 新福氏: 得られた感覚や学びは、勿論あります。作家さんの実力と今の自分の実力を考えて、どういったことができるか、どこまで詰められるか、みたいなバランスは見えるようになったかと思います。 ほか得られたことといえば、やはり誰のために漫画をつくるのかということでしょうか。漫画はあくまでも娯楽であり、生活必需品ではないんですよね。しかし、これがないと生きていけない、生き残れない人たちがいて。僕はその為に仕事をするべきだ、そしてその継続こそが大事なのだというふうに思うようにはなりました。 ──なぜその考えに至ったんですか? 新福氏: 自分がもともとそういう人間なんですよ。人生なんてデフォがクソゲーだしつまらないなと思っていた。だから何か作っていたかったんだろうと思います。劣等生だったので「あんなこといいな できたらいいな」という夢想で命が繋がった感覚があるんですよね。物語があったから生きてこられた。 これにはヤマザキさん(『魔法使いの嫁』著者のヤマザキコレ氏)も「ですよね」と強く共感してくれて、まほよめが出来上がっていった。この二人で作ったものがきちんと世の中に評価されたときに「この感覚は大事なものなんだ」という思いが強化された……ということはあったと思います。 そのうえで誰かの命綱になってる以上は、「良い状態で作品を続けなければいけない」という責任みたいなものを二人とも真剣に考えるようになったような気がします。 ……もっといい話ができればいいんですが、結局は毎日を必死にやってる感じです。 ──なるほど。そしてマッグガーデンには長いこと在籍されたわけですが、やはりここは自分の居場所になりそうだ、というフォーカスした感覚があったのでしょうか。 新福氏: どうでしょう…自分には合っていたのかなとは思いますが、10年の在籍も個人的には5年くらいの体感でした。映像が2回も走ると、小さい会社だとやることも多くて。 マッグガーデンが作っている作品というのも、非常に中性的なものじゃないですか。だからこそ表現できる幅もあるし、少年漫画みたいな少女漫画を作っても読者が読んでくれるし喜んでくれる。それが僕にとってはすごくしっくりきた、ということはあります。 例えば少女漫画誌にいけば、『魔法使いの嫁』は絶対に恋愛をメインに書かされるだろうと。でもマッグガーデンやその読者さんの元に居る限りでは「物語を重視しなさい」という方針だったので、恋愛だけが人生のすべてじゃないし、結婚の先にもいろんな冒険があるよね、という形で制作を進められた。10年近く居て居心地が良かったのは、この方針がしっくりきたからだと思っています。 ヤマザキさん自体も、カラーがはっきり決まり切っているメジャーな雑誌は苦手で、というのを聞いたことはありますね。求められるものがはっきりしてきているなかで、恋愛を求められてもそんなに恋愛を書きたいわけじゃない。かといって、ファンタジー漫画で王道を描けとなるとバトルを描けって言われる……。「じゃあ私みたいな漫画はどこに行けば評価してもらえるのか?」という思いはずっとあったみたいです。なので、二人ともに結果的には良い場所だった、と思っていますね。 ■出版というビジネスの本質は林業や農業に近い ──そこからなぜブシロードワークスの立ち上げに参加することになったのでしょうか。 新福氏: 数年前からマッグの従業員と兼業で、リンガ・フランカという会社(マッグガーデンの親会社であるIGポートの子会社)もやっていました。これは幾つかの出版社さんと一つの配信プラットフォームを作ろうと当初立ち上げた会社で、「マンガドア」という漫画の配信サービスを展開していました。 この会社が途中から、ブシロードとのジョイントベンチャーのような形の資本関係になっていたんですが、創業5年で中途半端な利益しか出ない状態でして。大きな勝ちはみえない状態で続けるのは良くない、引き際だなという判断をしました。そこで会社を清算することになり株主であるブシロードに相談にいきまして。その後、木谷社長からブシロードワークスのお話を頂いたという流れですね。 ──なるほど、そういう流れだったんですね。 新福氏: ええ。仕事の内容的には、自分がやりたいことと一致していたので、そこは面白そうな仕事だと思いました。次に考えたことが、引き受けたとして上手く行くかどうか。 異業種から出版を始めてうまくいく例というのはどちらかといえば少ない。上手くいかせるためには何が必要でどういう条件だったらできるのか、そういう自分なりの方法論を考えてみたんです。そちらをお話したうえで、自分の中にある仮説検証をできるのも他にはない貴重な機会だなと考え、熟慮の結果、謹んでお請けした次第です。 ──異業種から上手くいかないのはなぜだと思いますか? 新福氏: 出版業界人内では一定答えは出ているような気もしますが、出版というビジネスの本質は林業とか農業に近しい性質だと理解されておらず、見誤った急成長のシナリオに嵌められてしまいがちなことが一番の原因ではないかと思っています。 元々狩猟的にビジネスを作ってきたひとたちが、急に畑を耕すことって難しいじゃないですか。土もただの土としか認識していない。土や種籾こそが大事なのに。多分そのあたりのギャップが大きくて失敗していくのではと。畑や土壌なんて関係ない、目の前に狩るべき生物が飛び出してくるからそれをタイミングよく掴むんだろという感覚だと、思惑と結果がズレていってしまうんだろうなと個人的には思います。 ──それは出版社に限らず、エンタメ全体がそういう側面を持っていますよね。 新福氏: そうです。あとは、編集者がどう作品に関与しているかを理解できていないというのもあるかもしれませんね。「単に声掛けて書いてもらうだけ。作家さんに才能と実力は必要だけど編集者には特に何もいらない、とにかく動いて営業してこい」という感じで、営業に見立ててたり。それもまた失敗の理由の一つかなと。実際は「みる眼」だったり「コーチング」だったり「寄り添う力」だったりと必要なものがたくさんあるはずなんですが。 ──この辺は新福さんに今更言うまでもないのですが、編集者の重要性って知れば知るほど痛感するじゃないですか。場合によっては作家さんと同等かそれ以上の才覚が必要とされるというか……。 新福氏: そうですね、僕は必要とする作家さんもまだ多いと思っています。それこそ編集も1人でも大きく優れた人間がいれば、会社が一定成り立つんですよね。だから100人雇って1人成り立ってくれればいいと。これもまた理解できないんだろうなと思います。 ──それこそ講談社の森田さん(『週刊少年マガジン』旧編集長・森田浩章氏)のように、優秀な編集が一人いれば作家が100人育つ。いかに一人の編集を捕まえることが重要か、ですね。 新福氏: 森田さんの仰るところ、よく解ります。作家さんに対しても編集者に対しても、1人を作るために多額の投資を続ける必要があるのが出版事業なのかもしれません。事業継続している版元にとって、そこは違和感はないのかなと。なぜならば、その結果、リターンがあったという成功体験が各社には連綿とあるので。ただ、これを数字でみてみると、絶対にわからないんですよ。そこには反映されないので。 ──狂気の話でいうと、とある香港の投資会社の方々が資金の再投資率の話をされていて。例えば、映画産業だと儲けたお金の9割を再投資するらしいんですが、一方でゲーム産業は6割程度しか再投資していない。それだけゲームは未成熟だという話なんですが、映画産業は映画だけで回るし、外からの資金を呼び込めているけど、ゲームは流出の方が多いと。でも、これぐらいのマインドがないと狂気には付き合えないし、3年儲からなかったらやめるとなってしまう。このような違いはどう思われますか? 新福氏: 映画とゲームは門外漢なので返答が難しいのですが、畑を続ける人とそうでない人の違いは、そこにどれくらいの時間を見るのかであろうとは思います。先も申し上げた通り、短期でお金を稼ぐのであればもっと良いビジネスがあるので。畑を耕すひと、森を作るひとは10年20年、或いは50年を見ている。今日食べるに困って50年を見ているから狂気染みてくる…ということはあるかもしれませんね(笑) 我々としても先を走る皆様に並ぶ為に作品を送り出す、恐れず覚悟を持ってしっかりやりきる。これが積み重なっていった先にしか作品つくりのDNAは残らないなと個人的に思います。 ──そういう意味では、事業規模を反映しづらいということ一点も関係があると思います。例えば、作品を作るにあたり一気に展開するような考え方は理屈上では正しいけども、大体は上手くいかない。この上手くいかない理由は何だと思いますか? 新福氏: 事業規模や資本力を以て、業界を変革していくというやり方が出版においてなぜ上手くいかないか……これは僕も教えてほしいくらいですが(笑)、漫画にとって資本があることが強みに繋がりにくいからなのかもしれませんね。ビジネスモデルとしての部分と、ステークホルダーの意識や実利部分とで。 まずビジネスモデル的な部分でいえば、例えば映画やゲームだと、基本的にはチームで作っていて、あるところで開発費とクオリティは比例関係にあるのだろうと考えます。勿論、キーマンの才覚は必須だと思いますが、ここで重要なのはキーマンだけで短期間に作ることはほぼ不可能ということです。 一方で、漫画は(負担も含めてですが)一人の才覚と力で制作できるところが大きい。極端な話、10万の原稿と7,000円の原稿で競争しても後者の方が読者に支持されたりすることがよくある。投下資本によって大きく勝負が変わらないので、若い個人の才覚や時代を掴む力が大事ですし、そこでお金がなくても勝負ができる。これが漫画や小説の良い要素であり、参入が非常に難しい要素でもあるのかもと考えたことはありますね。 次にステークホルダーの意識と実利ですが、情緒の面でいえば、作家さん方にとって作品は自分の子供と同じくらい大事なものです。その大事な子供を一部でもお金で売り渡したりすることは難しい。現状システム的にその判断をする必要がなければ、そちらに流れることは難しいでしょう。また漫画はストック型のビジネスになりつつあるので、継続性がある会社のほうに預かって貰っていたほうが実利がある。そんな状態でその場だけ景気よく入っても「で、あなたは私の子供を何年預かってくれますか?」という目にはなるだろうなと。 ──そういう意味では、作家の才能が何よりも重要ですよね。 新福氏: そうですね。才能がどうやったら集まるのかと考えると、大切なのは看板だと思っています。そしておそらくその看板は、個人のことではないのだろうと。 ──それでいうと、最近KAMITSUBAKI STUDIOのTHINKRに若い作曲家が集まっているらしいんですよ。その理由をお伺いしたんですが、「いろいろな経緯があってたまたま自分たちがキャンバスになった」というお話をされていたんです。自分たちがキャンバスになったから、ここに絵を描きに来ようと思える人たちが生まれたと。新福さんは「看板」という言葉で仰られましたが、キャンバスであるか否か=才能が集まるかどうか、というひとつの捉え方なのでしょうか。 新福氏: ここなら面白い仕事ができそうとか、信頼して自分の作品を預けられそうとか、そういう感覚がごちゃ混ぜになったときに、僕が言っている看板やキャンバスという表現があるのかなと思いますね。 ──なぜそれが編集者にならないのか分からないのですが、なぜだと思いますか? 新福氏: 編集者個人がどんなに優秀でも、相性というものがありますし、何より時間的制約からは逃れ得ないですから(笑)。この相性というのは、同じ時代に大人になっていったという同年代性も多分に含まれます。優秀な人間であるよりも同年代性があり、思想的に共感出来る人間のほうが上手くいくことも多分にしてある。そういった事を考えるに大事なのは、その時々で優秀な人間が残していく“ミーム”の堆積なんじゃないかなと。その積もったミームを僕は「看板」と呼んでいるのだろうという気がします。 ──なるほど。ブシロードワークスさんが目指す方向や新福さんの考え方がかなり理解できたと思います。 新福氏: ありがとうございます。今回のお話に共感いただけた方も違う方も、弊社に興味を持って貰えればとても嬉しいですし、出来ることなら我が家にいらして頂ければと思います。 特に『ジャンプ』は解るが分からないんだよな~~~という方は、話しましょう(笑)。 ──(笑)。本日はありがとうございました。
電ファミニコゲーマー:TAITAI
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