政府がさらに10兆円ぶち込む…国産の次世代半導体の量産を目指すラピダスの特別参与に「岸田総理の懐刀」が就任したワケ
GDP損失額は94兆円にも
こうした動きに連携するかのように13日午後、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京で時価総額約540兆円の世界ナンバー1企業、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが「AIサミット」を主催した。 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長との対談後の記者会見で、フアン氏はAI半導体製造をラピダスに委託する可能性を問われてこうエールを送った。 「私はラピダスに信頼を寄せている。その時が来れば、もちろん名誉なことだ」 そもそも高度な情報処理や優れたAIの製品・サービスへの実装などに不可欠な物資である半導体について、日本は現在、その供給を台湾や米国、韓国に大きく依存している。日米韓中で日本が台湾に最も依存し(17%)、仮に台湾からの供給が途絶すれば、GDP損失額は94兆円との試算もある。 改めて指摘するまでもなく、経済安全保障の観点からも国内基盤の強化が急務だ。 その意味で、日本ではロジック半導体については40nmまでしか生産できていなかったが、世界最大の専業半導体ファウンドリTSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出により、6nmまでの生産基盤を確保予定が立った。 それだけに生成AIや自動運転車等にとって不可欠となる最先端の2nm世代半導体の国内生産基盤を構築する取り組みであるラピダス・プロジェクトは、まさに「2030年度までに10兆円超の公的資金を投じるに値するプロジェクト」(先述の24年総合経済対策案)なのだ。 然るに岸田文雄首相の首席秘書官を務めた嶋田隆・元経済産業事務次官が11月1日付でラピダスに特別参与で迎えられたのだろう。
まずは原発の再稼働
産業政策に通じ、且つ豊かな国際人脈を有する同氏に期待される当面のミッションは北海道電力泊原発3号機の再稼働にメドをつけることだ。 なぜならば、世界でデータセンター運営や自動運転車製造等を行うラピダスの想定顧客は半導体製造過程におけるグリーン化への要求が厳しいため、ラピダスの半導体工場の稼働には大量のクリーン電力が必要だからである。 もちろん、ラピダスが目指す2nmの量産に辿り着くまでの道のりは、山あり谷ありである。来年1月20日には先行きが見通せないドナルド・トランプ米大統領が誕生する。 仮に米中「貿易」戦争(=関税戦争)が勃発したとしても、自ら「Triff Man(関税男)」と称するトランプ氏が大統領任期中(~2028年)はラピダスの生産が開始されて間もない黎明期なので、いきなり日本(=ラピダス)目がけて撃ってくることはないと思われる。 幸いにも、対処策を考えるのに多少の時間がある。このAI・半導体産業基盤強化は “オールジャパン”で臨む必要がある「石破アジェンダ」なのだ。
歳川 隆雄(ジャーナリスト・「インサイドライン」編集長)