LFP電池の正極材で使えるランクセスの酸化鉄とリン酸鉄の強みとは?
ランクセスは2024年12月6日、東京都内で「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーソリューションに関するメディアラウンドテーブル」を開催し、電池向けの酸化鉄「バイオキサイド」や開発中のリン酸鉄について紹介した。 「バイオキサイド」の特徴[クリックで拡大] 出所:ランクセス
ドイツの製造拠点は合成酸化鉄の製造能力が年産30万トン
同社はドイツの化学/製薬会社のバイエルから2004年に独立した特殊化学品会社で、アドバンスト中間体や特殊添加剤、コンシューマープロテクションなどの製品を展開している。世界32カ国に拠点を持ち1万2400人の従業員が所属し、グローバルで55の生産拠点を持つ。2023年度の世界売上高は約67億ユーロ(約1兆634億円)。 現在、同社はリン酸鉄リチウムイオン正極活物質用の材料として、酸化鉄のバイオキサイドを提供している他、鉄とリン酸原料をベースとしたリン酸電池グレード鉄の研究/開発も進めている。リン酸鉄リチウム正極材は大きく分けて2種類の生産プロセスがある。1つ目は、酸化鉄、リン化合物、リチウム化合物を組み合わせるプロセスで、2つ目はリン酸、鉄、リン酸鉄、リチウム化合物を配合するプロセスだ。 バイオキサイドは調整された粒子径と高い相純度によりリン酸鉄リチウムイオン正極材に適した電気特性を持つ。同製品は既に販売されており高品質のリン酸鉄リチウムイオン正極材の製造に利用されている。 ランクセス 無機顔料ビジネスユニット 日本統括マネジャーの菅谷一雄氏は、「当社は、ドイツ、ブラジル、中国で合成酸化鉄の生産拠点を持つ。ドイツのクレフェルト・ユルティンゲンにある生産拠点は合成酸化鉄の製造能力が年産30万トンで、品質管理の国際規格『DIN ISO 9001』と『ISO 14001』の認証を取得済みだ。ブラジルのポルトフェリースにある生産拠点は製造能力が年産3万2000トンで、酸化鉄を用いた顔料などを製造している。中国国外で製造される合成酸化鉄生産量の約70%はランクセス製だ」と話す。 ドイツの生産拠点では合成酸化鉄の製造プロセスとして「ラウックス法」と「沈殿法」を採用している。ラウックス法はニトロベンゼンと鉄を化学反応させ、黒のマグネタイトや黄のオキシ水酸化鉄を製造する。マグネタイトの一部は焙焼し三酸化二鉄を作る。マグネタイトやオキシ水酸化鉄、三酸化二鉄は配合し茶色の酸化鉄などを製造する。 沈殿法プロセスは、硫酸鉄や苛性ソーダ、空気を化学反応させ、黄のオキシ水酸化鉄や黒のマグネタイトを製造。これらも配合し茶の酸化鉄などを製造する。 ブラジルの生産拠点では「ペニマン法」を採用している。ペニマン法は鉄、硫酸、水を化学反応させて、硫酸鉄を製造した後、硫酸鉄と空気を化学反応させ黄のオキシ水酸化鉄を作る。「これらの製造プロセスで利用する鉄は、ドイツ工場近辺の自動車メーカーや酸化チタンメーカーから購入したくず鉄を利用している」(菅谷氏)。 ドイツの生産拠点で製造される酸化鉄は「製品環境宣言(EPD)」対応製品で、ライフサイクル全体における環境負荷を第三者機関が報告書にまとめている。 菅谷氏は、「ランクセスでは、ドイツの電池材料メーカーであるIBUテックと電池分野でパートナー契約を結び研究開発を行っている。協業の目的は、リン酸鉄リチウムイオン電池の性能を向上させるための正極材料として機能する酸化鉄の製造方法を開発することだ」と述べた。 また、同社は古いリン酸鉄リチウムイオン電池を大量に回収するためのリサイクルコンセプトの開発も推進。パートナー企業とのプロジェクトは、ドイツの連邦経済/気候保護省(BMWK)の資金援助を受けている。 同社が開発を進める電池グレードのリン酸鉄は電池用途に最適化された製品で、リン酸鉄リチウムイオン電池のメーカーや自動車メーカーとの共同開発を目的とした材料となっている。同製品の生産プロセスは欧州の安全衛生委員会(HSC)の基準に準拠した高度なプロセスだ。 同社のR&D研究所では、二水和物と無水の電池グレード向けリン酸鉄の開発に成功しており、製品のカスタマイズにも対応している。菅谷氏は、「既にラボベースで電池グレードのリン酸鉄を小ロットで生産できる。また、現在はドイツのクレフェルト・ユルティンゲンで電池グレード向けリン酸鉄用のプラントの建設を検討している段階だ」とコメントした。なお、同社の電池グレード向けリン酸鉄の発売時期は未定だ。
MONOist