「慧眼」の読み方を知っていますか?
宮崎)その方は50歳なのですが、50年間、ずっと「慧眼」という字にルビが振っていなかったので、「すいがん」と読んでいたのです。子どものころに「すいがん」と覚えてしまい、そのまま言ってしまった、ということだそうです。私は慧眼という言葉を使おうとする姿勢はとても尊いものだと思うのですが、惜しむらくは読み方を間違えてしまった。私もこれはルビがなかったからだと思います。ルビが事実上、廃止されてしまった戦後の国語教育の犠牲者であると思っています。 黒木)ラジオで宮崎さんが、「実はこのような本が出たのですよ」とおっしゃったのが、新潮選書から出ている『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』という本です。そのあとすぐに買いました。 宮崎)ありがとうございます。 黒木)読み始めたら本当に面白くて、「この字は知ってる。あ、でもこういう意味だったんだ」とか。いまも手もとにあります。 宮崎)付箋まで貼っていただいて、ありがとうございます。 黒木)例えば「目眩(めくるめ)く」という言葉は、「まばゆい」でも「まばゆく」でもなく、「めくるめく」と読むんだ、と思って。 宮崎)これまで、お芝居などで「目眩く」という言葉は使いませんでしたか? 黒木)ひらがなで出てきます。 宮崎)そうですよね。普通はひらがなですよね。ルビを使わなければ、ひらがなで表記するしかない。普通の人は読めないですよね。
宮崎哲弥(みやざき・てつや)/評論家 ■慶応義塾大学文学部社会学科卒業。 ■政治、経済、宗教、漫画、映画などを対象に評論活動を展開。 ■単に政治経済を専門とするだけの評論家とは違い、矢沢あい氏の人気漫画『NANA』に関して評論したり、ヴィジュアル系ロックバンド「LUNA SEA」のヴォーカリスト・河村隆一と対談したり、日本のヒップホップについて語ったりと、サブカルチャーやオタク文化全般に対しても深い理解を示し、好意的なスタンスにある。 ■2022年に『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』を発売。中学生のころより本や雑誌、新聞からメモしてきた「語彙ノート」の1万語から500余語を厳選。読むだけで言葉のレパートリーが拡がり、それらを駆使できるようになる異色の「文章読本」となっている。