＜マジックの裏側・木内野球を語り継ぐ＞１９９４年春準優勝・清本隆治さん／中 小技でもぎ取る１点 ／茨城
◇「弱いからなりふり構わず」 センバツ２回戦は高知商との対戦。二回、常総学院は２死一、三塁の好機を作ると、木内監督はベンチから大胆なサインを送った。しかし、チーム内に驚きはなかった。日ごろ練習を重ねたプレーだったからだ。 打席の内田に対し、高知商の投手が初球を投げ込んだ。捕手が投げ返そうとするその瞬間、一塁走者・清本がスタートを切った。ディレードスチールだ。それを見た捕手は遊撃手へと送球。一、二塁間で清本が挟まれるすきに、三塁走者・田中が本塁に向けてダッシュした。深追いする遊撃手の背中を見て、「あの体勢からだと本塁に送球しにくい」と見極めたのだ。遊撃手から捕手への送球はわずかに一塁方向へそれ、田中は先制のホームを陥れた。 この試合、清本は高知商を４安打完封。本盗（記録は重盗）で挙げた１点が、貴重な決勝点となった。「（重盗は）狙い通りのプレー。弱いチームだから、なりふり構わずやるしかない」。試合後の木内監督は事も無げだった。 ◇ 清本は１９９３年の秋、新チーム発足後に練習内容が一変したことを覚えている。 一つ上の代は後にプロ野球・日本ハムで活躍した金子、法大や本田技研でプレーした根本など有力選手がそろい、「彼らに任せておけば点が入るチームだった」という。練習は専ら基本的なプレーの強化に時間を割いた。 しかし大黒柱が抜け、小粒になった新チームではセーフティーバントやヒット・エンド・ランなど足技の練習に重きを置くようになった。 ディレードスチールも、くどいほど練習を繰り返したものだ。右投手と左投手、それぞれのパターンを想定し、すでに還暦を過ぎていた木内監督自らがお手本を見せた。 高知商戦の三回の守備。清本は送りバントが小フライとなったのを意図的に捕球せず、走者を足止めして併殺に仕留めた。これも、何度も繰り返し練習してきたプレーだった。 木内監督はいかに１点をもぎ取り、いかに一つのアウトをもぎ取るかにこだわった。「ルールの範囲内であれば何でもやる。えげつないほど勝利にこだわる人だった」（敬称略） ……………………………………………………………………………………………………… ＜第６６回センバツ＞ ▽２回戦 常総学院 ０１００００００１＝２ ０００００００００＝０ 高知商
