デビュー25周年を迎えたbirdとはどんなアーティストなのか。音楽遍歴からその魅力を振り返る
■25周年プロジェクトから生まれた“新しいベストアルバム” 1999年のデビューから今年で25周年を迎えたbirdが、その記念プロジェクトの第一弾としてオールタイムリエディットベスト『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』をリリースした。今回のために新たにリエディットを施した名曲群に加え、大沢伸一(MONDO GROSSO)がプロデュースを務めたデビューシングル「SOULS (Main)」を大沢自ら再構築した新録「SOULS 2024 Shinichi Osawa ver.」を収めた全21曲。 【動画】bird – SOULS / THE FIRST TAKE シングル曲とアルバム曲をバランスよくピックアップしたbirdの四半世紀に及ぶキャリアを一望できるセレクションでありながら、従来の彼女のベストアルバムやコンピレーション――bird自身の選曲による『bird\'s nest 2013』、橋本徹(サバービア)監修の『Free Soul Collection』、デビュー20周年を祝して組まれた『bird 20th Anniversary Best』など――よりもカジュアルに楽しめる内容は、本人が寄せた“新鮮で軽やか”とのコメントがしっくりくる。 ■デビューからこれまで。音楽遍歴を振り返る そして、収録曲がリリース順に並べられている『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』は、birdの25年の音楽的変遷をドキュメンタリー的に振り返ることができる構成も大きな魅力になるだろう。アルバムを聴き進めていくと、それに伴って自ずと彼女が残した名作名曲名演の数々が去来してくるのだ。 国内クラブミュージックシーンの支柱的存在である大沢伸一主宰の“RealEyes”第一弾アルバムとして登場、70万枚以上を売り上げて日本ゴールドディスク大賞新人賞受賞をもたらした『bird』(1999年)。 引き続き大沢の総指揮のもと「オアシス」や「GAME」などスマッシュヒットを連発、オリコンチャート最高5位を記録した『MINDTRAVEL』(2000年)。 “RealEyes”から離れてセルフプロデュースを敢行、山崎まさよしやDJ KRUSH率いる流などバラエティに富んだゲストとのコラボに挑んだ『極上ハイブリッド』(2002年)。 プロデューサーに田島貴男(オリジナル・ラヴ)を招き、アル・クーパーやイヴァン・リンスら豪華作家陣の提供曲を歌った『DOUBLE CHANCE』(2003年)。堀込高樹(KIRINJI)が作曲した「髪をほどいて」を収録、架空の未来リゾートを舞台にしたキャリア初のコンセプトアルバム『vacation』(2004年)。 新たなプロダクションパートナーとして冨田恵一(冨田ラボ)を迎え、自身の出産に基づく体験を落とし込んだ『BREATH』(2006年)。大胆にもスタジオ録音とライヴ録音をシームレスに融合、ライヴでバッキングを担うThe N.B.3.と作り上げた『NEW BASIC』(2011年)。実験的な試みでもあった前作での収穫をほぼ同じメンバーと共にさらなる高みへと発展、よりボーダレス化を推し進めた『9』(2013年)。 冨田恵一と再びタッグを組んで新たな音楽性を志向、現行ポップスの潮流を踏まえつつ先鋭的なサウンドに取り組んだ『Lush』(2015年)。KASHIF(Pan Pacific Playa)、江崎文武(WONK)、角田隆太(ものんくる)など新世代の感性も取り入れながら冨田と共に『Lush』の音像をアップデートした『波形』(2019年)。 このほかにライブアルバム『LIVE tour 2000 + 1』(2001年)もあれば、カバー集の『BIRDSONG EP -cover BEATS for the party-』(2007年)や『MY LOVE』(2008年)、セルフカヴァーアルバム『HOME』(2013年)もある。 もちろん、MONDO GROSSO「LIFE」(2000年)からスチャダラパー「壊れかけの…」(2009年)に至るまでゲストボーカルを務めた作品にも忘れ難いものが多いだろう。マスターズ・アット・ワーク、MJコール、マッド・プロフェッサーなど、ニューヨーク/ロンドンで活躍する超一級のコンポーザーを起用した初期のシングル曲で聴けるリミックスのインパクトも絶大だった。 ■birdが普遍的な理由 よく知られているようにbirdのアーティストネームはデビュー当時の彼女のアフロヘアーが鳥の巣のように見えたことに由来しているが、こうして25年の軌跡を辿っていくと広大な音楽の世界を自由かつ果敢に羽ばたき続けたその勇姿を以ってbirdと呼びたくなる(いまとなってはイメージにないかもしれないが、Zeebra「未来への鍵 (Osawa\'s Realized Mix)」でレコーディングデビューしたbirdが初期の活動のなかで日本のヒップホップ勢との繋がりを大切にしていたことはこの機会に改めて強調しておきたい。DEV-LARGEやSUIKENとマイクを交わす「REALIZE」、TWIGYをフィーチャーした「これが私の優しさです」、DJ WATARAIによる「SOULS」「Beats」のリミックスなどを参照)。 それにしても、次々とジャンルを越境していく冒険心に富んだ活動を展開してきたにもかかわらず、まったく色褪せる気配のないbird作品の普遍性の高さは一体どこからくるのだろう? 大沢伸一のバックアップを受けてY2Kのクラブミュージックのエッセンスを広くポップフィールドにまで届けたbirdは、そのフィーリングを基盤にして理想のグルーブを追求し続けてきたわけだが、彼女の強みはそんなクラブミュージック/ダンスミュージックオリエンテッドな出自でありながらもシンガーソングライター的な日常感/生活感を備え持っている点にあると考えている。 birdは目下最新オリジナルアルバムである『波形』の制作に取り掛かる際、プロデューサーの冨田恵一に「語るように歌う、そんな曲がやりたい」と伝えたそうだが、このエピソードからするときっと彼女は自分の歌が生活に根差したものであることに極めて意識的なのではないだろうか。 そういえば『波形』の完成直後、birdは『20th Anniversary Best』のリリースに合わせて自身の公式サイトにこんなメッセージを記していた。 「私にとって歌うことはとても大切だけれど、デビューのころとは少し変わってきていて、日々の暮らしの中で歌うことはそのひととき、声と共に軽やかでいられるような、そういう存在。また変わっていくのかもしれないけれど、歌うということをこれからも感じていけたら」 ■『THE FIRST TAKE』への出演で感じた“Life” デビュー25周年のタイミングで実現した『THE FIRST TAKE』での「SOULS」と「空の瞳」のパフォーマンスからは、そんなbirdの“日々の暮らしの中で育まれた歌”ゆえのびくともしない強さが一発撮りのスリルも相まって余計に説得力を増して響いてくる。彼女とMONDO GROSSOのコラボレーションから生まれた名曲にちなんで、というわけではないけれど、やはりbirdの音楽からは強烈に“Life”(生活、人生、命)を感じるのだ。 そして“Life”をキーワードにしてbirdのディスコグラフィと向き合ったときに真っ先に思い浮かぶのは、出産の経験を踏まえて日常的な視点から人生を捉えたアルバム『BREATH』のエンディング曲、今回の『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』にも収録されている「パレード」だ。ここで彼女はニューオーリンズ独特の葬儀のパレードから生まれた“セカンドライン”の陽気なリズムに乗せて、こんなふうに“人の一生”を歌い上げる。 「私という時間をただ見つめながら 通りすぎてきただけなのさ 雨が川になり流れ流れ 海へたどり着くように少しずつ 歩んできた いのちのバトンをね 渡してつないでく あなたの情報は 私のこの体に 私の音楽は あなたのその記憶に 私の情報は あなたのその体に あなたの音楽は 私のこの記憶に」 ――1999年のデビュー当時からbirdの歌を聴き続けてきたが、きっとそれはこれから先も変わらないだろう。彼女の音楽は人生の営みの中で心強いサウンドトラックになっていく、そんな確信があるのだ。 TEXT BY 高橋芳朗
THE FIRST TIMES編集部