いつか電気代ゼロの町に 再稼働までもう一歩 愛媛の木質バイオマス発電
2023年4月、新聞に「内子のペレット工場で火災」との小さな記事が載った。建屋を半焼し、機械設備を焼失する被害を受けたのは、内藤鋼業(内子町五十崎)運営の工場(内子町寺村)。地元産材を活用する「木質バイオマス発電」の燃料を生産する重要施設だ。2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量ゼロを目指す内子町の「ゼロカーボンシティ」構想に欠かせない取り組みだったが、燃料生産がストップし隣接する発電所も停止を余儀なくされた。 1年が経過した4月下旬、大きな打撃を受けた施設を訪ねてみると、内藤昌典社長(60)は新しい機械の導入に奔走していた。復旧は容易ではないが、6月以降の発電所再開に向けてあと一歩のところまで来ている。「ようやく準備ができた。まずは火事が起こる前の状態に戻したい」。(薬師神亮太) 木質バイオマス発電 未利用の間伐材や廃材などを燃料に電気をつくる。木は成長の過程でCO2を吸収するため、発電による温室効果ガスはゼロと見なされる上、太陽光や風力と違い、天候に左右されずに発電できる。 ◆火災発生 「うそやろ、ここまで焼けてるの」。内藤社長が火災のあった日の衝撃を振り返る。その日は日曜日。自宅で過ごしていたところに、電話が鳴った。「火事です。消せないので消防を呼びました」。現場の作業員からだった。 工場は、内子町の山間地・小田地域にある。町内の山から運び込まれる原木を粉砕してチップ状にし、乾燥させて「ペレット」と呼ばれる固形燃料に成形している。 火災発生の日もいつものように早朝から稼働。しかし、午前7時20分ごろ、火の手が上がった。連絡を受けた内藤社長が到着したのは午前8時ごろ。すでに火のいきおいは収まり、消火に伴う白い蒸気が立ち込めていた。けが人はなく、近隣の山や施設への延焼もなかったが、3台あったペレットを作る機械「ペレットミル」は全て焼け、木を乾かす乾燥機なども焼失してしまった。 ◆欠かせない乾燥工程 内子町には、ペレットを熱することにより生じるガスで発電機を動かし、電気をつくる「木質バイオマス発電所」が2カ所ある。内藤鋼業がペレットの製造と両発電所の運営を担っている。 内藤社長によると、ペレットの素材である原木は水分を多く含むため、十分に乾燥させなければ固形燃料にできない。スギは重さの約50~60%が、ヒノキは約30~40%が水分で、チップ状にしてもその量はほとんど減らない。チップを乾燥機に入れ、大幅に水分を飛ばす必要がある。 工場では「キルン式」と呼ばれる乾燥機を使う。ペレットにできない木や木の皮を燃やして生まれた熱を熱風に変え、円筒状の乾燥機に送っている。その中にチップを入れ、乾燥させる仕組み。高温の熱風を利用するキルン式は短時間で乾燥できる分、発火リスクもある。内藤社長によると、今回の火災は、乾燥機内が空だきの状態になってしまったことが原因と考えられるという。 これまでに、低温で時間をかけて乾かす「ベルトコンベヤー式」の乾燥機の導入を検討したこともあった。一般的に温水を熱源に使うため、キルン式と比べると発火リスクは低くなるがコストは増す。さらに、機械を置くのにも広いスペースが必要なため断念していた。ベルトコンベヤー式は大規模な工場での採用が多いという。 ◆木を出す仕事 なくさないため ペレットの素材には大きく曲がっていたり、割れていたりして、利益が出ないために山に放置された木を使う。内藤鋼業が内子町森林組合などと連携して木材を確保し、粉砕してチップ状にした後、乾燥・圧縮してペレットに成形している。 火災後、工場や隣接する発電所の稼働が止まっていても、木の搬入を止めるわけにはいかなかった。「木を出す仕事がなくなってしまう」(内藤社長)からだった。内藤社長は「一度仕入れをやめて、再稼働する時に『今日からまたお願いしますよ』ということはできん」と林業者をおもんぱかる。県森林組合連合会や交流のある企業に協力してもらい、原木やチップなどを引き取ってもらえるように手配した。 さらに、もうひとつの発電所「内子龍王バイオマス発電所」(内子町内子)は、在庫のペレットなどに頼りながら火災後も休まずに稼働を続けた。内子龍王発電所は、発電時に発生する熱を近くの宿泊施設の風呂やスポーツクラブのプールを温めるのに利用しており、近隣施設に迷惑がかからないようにするためでもあった。
愛媛新聞社