三光汽船、海運業90年の歴史に幕。後任確保・新規投資 難しく
【解説】見えた再建...にじむ無念
11年前、管財人兼社長に就任した当時の田端氏は再建の意欲に燃え、目つきが鋭かった。「体質の改善と意識改革を進める」とインタビューで再三語っていた。 田端氏はシティ銀行、米投資銀行エリオット出身の経歴を持つ。 大胆なリストラをするのかと思っていたが、人減らしより船隊規模の縮小を優先させた。神戸商船大学(現神戸大学)卒、反田産業汽船での勤務経験を考えると、どこか「潮の香り」がする経営者という印象もあった。 今回、最後の保有船を売却するに当たり、無念の言葉もにじむ。 最後の保有船は21年竣工の新鋭船。カーギルの用船保証がつき、「稼働率は98%、一流の荷主と堅実な運航をすれば黒字化するノウハウを確立できた」と語る。 実際、円安の効果もあるが、10億円規模の黒字を計上している。 今回、三光汽船が海運業から撤退する最大の理由は田端氏の健康問題、さらに今後の投資に対する懸念である。 社長就任時54歳だった田端氏も今年で65歳になる。昨年入院し、経営のバトンタッチを検討した。 しかし、日本の大半の船主同様に適任者がおらず、事業の売却も考えたが、「田端さんとセットでなければ無理だ」と言われたという。 新燃料が定まらない現状で新造船に投資するにはリスクもある。三徳船舶の故多賀征志氏にも相談したが、多賀さん自身が昨年亡くなってしまった。 社員やスタッフ10人の面倒は最後まで見るという。 近年は記者も三光汽船の取材から遠ざかっていた。 10年前、経営者と記者という立場から鋭く対立した時もあった。経営の一線から退く田端氏の姿に共感する部分が多いことに、記者も三光汽船の歴史、時の経過を感じざるを得なかった。 (山本裕史)
日本海事新聞社