86歳で認知症状がみられる独居の女性が飼っていた…多頭飼育崩壊の様々な「要因」
「多頭飼育問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。 多数のペットを飼育しながら、適切な餌や水やり、衛生管理ができておらず、悪臭や害虫など近隣への環境にも被害を及ぼしている状態を指す。 東京大学法学部卒、行政学、地方自治論、公共政策論を専門とする成城大学法学部教授 打越綾子先生によれば、その原因は大きくは2つあり、ひとつは犬や猫の繁殖業者によるものだという。特定のペットブームで売れ残った動物が劣悪な繁殖・飼育環境下に置かれる。 【写真】多頭飼育していた認知症の女性宅から保護された兄弟猫。 だがもうひとつの原因はごく普通の飼い主や中小規模の保護活動家なのだ。 「多頭飼育問題に関する論点整理」で打越先生はその背景を「精神性疾患や高齢者の認知症などとも関連があるとされ、生活困窮・社会的孤立の状態になりがちな飼養者の早期発見と配慮が必要」と説明している。 多頭飼育問題が崩壊した現場から救出された動物を引き受け、里親探しなどをする動物支援団体「ワタシニデキルコト」。 代表の坂上知枝さんは、こうした現場から保護された、まだ目も開かない、自分ではミルクも飲めない仔猫を預かり、多数世話をしてきた。 坂上さんに保護活動の実態や保護犬・保護猫とのエピソードをインタビューし、ライターの長谷川あやさんが綴る連載、第3回目をお届けする。
86歳認知症の独居女性が餌やり
坂上さんは個人として、また2020年に立ち上げた動物支援団「ワタシニデキルコト」で、さまざまな経緯で犬猫を保護してきた。なかでもいちばん多いのは、高齢者が病気(認知症を含む)、死亡など、なんらかの理由で飼えなくなった犬猫を、家族が保健所や保護施設に持ち込み、そこから坂上さんに相談が来るというパターンだ。 坂上さんの妹の家で暮らしている推定15歳超のタキは、「飼い主が死亡し、親族が千葉市動物保護指導センターに持ち込んだ、おばあちゃん猫。あと1、2年で看取りになるかと思いますが、それまで穏やかに暮らしてほしいです」(坂上さん、以下同)。 また、現在は新しい家族(里親)のもとで幸せに暮らす“揚げ物きょうだい”ともそんな風にして出会ったという。 「86歳で認知症状がみられる独居の女性が、2階のベランダで複数の猫に餌をやっていて、そのうちの2匹がベランダで出産。7匹の子猫が生まれたのですが、どの仔も状態が悪い上に多頭飼育崩壊状態で、別の場所に住んでいる本人の息子さんから千葉市に相談の連絡があったそうです。 センターから私のところに、『高齢の方が多頭飼育していたところで状態のよくない数匹の子猫がいると推進員さんから相談がありました。センターに収容されている猫ではないのですが、子猫をお願いできないでしょうか? 』と電話がかかってきたんです」 ここでいう推進員とは動物愛護推進員のこと。各都道府県知事から委嘱される市民ボランティアだ。 「推進員さんは、ご自身でも多くの保護動物を抱えていますが、それに加えて所管地域の保健所またはセンターからの相談にも対処します。キャパオーバーになってやめていく人も少なくありません」