長~い作品も“安心して”堪能!年末年始にゆっくり向き合いたい、長尺名作のススメ
このところ映画の「上映時間」が話題になることが多い。アクション大作や、アカデミー賞に絡む巨匠の名作で、ここ数年、2時間半(150分)は当たり前。時には3時間(180分)を超えるものも頻繁に見かけるようになった。もともと人間の生理として、集中して映画を観られるのは90~100分と言われ、そのあたりが上映時間の理想とされていた。しかし“長さを感じさせない”ほど没入できる映画もあり、それこそが傑作だとも考えられる。 【写真を見る】序盤の狂乱パーティシーンから、一気に引き込まれる『バビロン』 実際に歴史を振り返れば、観客動員数では今も世界最高といわれる『風と共に去りぬ』(1939/228分)、フランス映画史に残る『天井桟敷の人々』(1945/190分:2部構成)、日本映画では『七人の侍』(1954/207分)、そしてあの『タイタニック』(1999/194分)と、3時間超えの名作が次々と並ぶ。 ■巨匠たちが“本当に作りたい映画”を目指したら… ただ、ここ数年の“長編化”には大きな理由がある。それは配信との関係だ。上映時間が長い映画は、1日で上映できる回数も少なくなることから、スタジオや劇場側に敬遠されがち。しかし監督たちは“自分が本当に作りたい映画”を目指し、時には長尺になる。そうした志向を真っ先に受け入れていたのが配信のNetflix。基本的に上映時間に注文をつけず、自由に作らせる姿勢が、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(209分)のようにアカデミー賞に絡む長大な傑作を実現させた。 この流れに配信のApple TV+も乗り、同社製作のスコセッシ監督作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は上映時間が206分。やはり本年度の映画賞レースで存在感を示している。オクラホマ州で起こった先住民の連続死亡事件のミステリーに、FBIが誕生するきっかけも描いた本作は、1920年代も鮮やかに再現され、上映時間の長さを“感じさせなかった”という評価が相次ぐ。同じくAppleではリドリー・スコット監督の『ナポレオン』も158分。4時間におよぶディレクターズカット版もある。 ■感動や興奮をリピート!体感時間の変化にも注目 もうひとつ、配信の影響で考えられるのは、劇場公開との“差別化”。新型コロナウイルスのパンデミックによって、映画を配信で観る人が急増。劇場側としては、自宅などでは味わえないスケールや興奮を届ける作品を望むようになり、“どうせ劇場に足を運ぶなら、じっくり楽しめるものを”という考えから、アクション大作も長編化の傾向になった。 代表的なのが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。上映時間は192分。13年前の前作『アバター』の162分を大きく上回ったが、惑星パンドラの世界観、とくに水の中に没入できる特別な体験は、短い上映時間ではもったいないかもしれない。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』もシリーズ最長の164分だが、要所にアクションの見せ場が配置され、観ていて飽きない構成。マーベル作品も、多数のキャラが集結する『アベンジャーズ』関連はともかく、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォオーエバー』の161分のように各作品で長編化の傾向が濃厚。長大な作品はどのようなスタイルで作ればいいか。最近は、そのコツをつかんだ監督も多く、以前よりも観やすい設計になっているのは事実だ。現在、劇場公開中の『ハンガー・ゲーム0』は、大ヒットシリーズの原点を描く物語だが、これもシリーズ最長の157分である。 こうした長編化の流れは、配信会社ではないメジャースタジオも受け入れるようになり、とくに巨匠と呼ばれる監督の新作は軒並み上映時間が長いものが目立つ。スティーヴン・スピルバーグ監督が自身の生い立ちを振り返った、彼の記念碑的作品『フェイブルマンズ』は151分。『ラ・ラ・ランド』でトップ監督になったデイミアン・チャゼルが、1920年代のハリウッド黄金期のセンセーショナルな裏側に肉薄した『バビロン』は189分。どちらも映画の歴史に重要なトピックを、後世に“残したい”という巨匠の思いが詰まっており、映画ファンには上映時間の長さが気にならないはず。 また、カリスマ指揮者の素顔をじっくりとあぶり出し、終盤の思わぬエモーションを導く『TAR/ター』(159分)のように、シンプルに上映時間の長さが意味をもつ傑作も増えているし、今後も、ようやく日本での公開が決まった『オッペンハイマー』(180分)のように長尺の必見作が続く。 ただ、このような映画の長編化で、多くの人が気にしてしまうのは、劇場で観る際のトイレ問題。『風と共に去りぬ』や『七人の侍』の時代は、途中で休憩(インターミッション)が入ったが、現在は基本的にぶっとおしで上映される。ゆえに劇場での鑑賞を敬遠してしまう人も一定数いる。そんな人たちには配信がうってつけで、ゆっくり時間がとれる年末年始は、長尺の名作を“安心して”堪能するうえで最適。もちろんすでに劇場で観て、感動や興奮をリピートしたい人にもオススメの時期だ。2度目の鑑賞では、なぜか体感時間がさらに短くなるのも、名作の証明だと実感できるはず! 文/斉藤博昭