古代ローマ庶民の知能指数(IQ)は「ある物質による深刻な大気汚染」で低下していたかもしれない! 人類史上初の“産業公害”か
銀はローマ帝国の隆盛に拍車をかけた。コイン中心の通貨により交易が加速し、税収もたんまり増え、軍事征服のための資金調達ができたからだ。 【画像】ローマ時代の鉛製の水道管 だが、帝国内で銀を採掘・抽出する際、鉛があまりにも多く大気中に放出されたために、住民の知性がやや低下したかもしれないことが、ある研究で示された。 ウィーン大学の大気科学教授で、この研究論文の共同執筆者であるアンドレアス・ストールは、「ワシントン・ポスト」紙にこう語る。 「銀を鉱石から取り出すには粉砕しなければいけません。これはホコリまみれの作業で、このホコリには鉛が多く含まれているのです」 米国科学アカデミー紀要に掲載されたこの研究論文では、銀の採掘・精錬作業で神経毒がたくさん放出され、「広範な認知低下」が起こっていたであろうことがわかったのだ。これにより、ごく普通の人の知能指数(IQ)が多くて3ポイント減っていた可能性があるという。 「認知低下を引き起こすのに充分な濃度でした。子供たちにとってはなおさらそうです」とストールは言う。 この研究結果が意味するのは、およそ200年におよぶローマの黄金時代「パックス・ロマーナ」がじつは、人類に大規模な健康被害をもたらす産業公害の史上最初期の一例だったかもしれないということだ。 この研究は、大量の鉛中毒がローマ帝国の崩壊に寄与したのか否かをめぐって長年続けられてきた激論をさらに煽りうるものでもある。 論文の執筆者たちは次のように書いている。 「古代には相当な鉛汚染があり、それが人の健康に影響していたかもしれないことは、古文書や考古学的な証拠から示唆されている。 鉛汚染の経路は多く、鉛入りの食器、塗料、化粧品の使用、さらには故意の摂取も含まれていた。だが、非エリートで地方に住んでいた大多数の人にとって最も重大な経路は、ローマ経済を下支えしていた銀および鉛鉱石の採掘・精錬による大気汚染だっただろう」
Leo Sands