柄本時生、主演なのに「僕らはあまり出てこない」WOWOWモキュメンタリー『PORTAL-X』を語る
WOWOWが“モキュメンタリー”という手法を用いて、現代社会の様々な問題に鋭く切り込んでいく新番組『PORTAL-X ~ドアの向こうの観察記録~』が放送・配信される。主演を務めるのは柄本時生と伊藤万理華のふたりだ。 【全ての写真】WOWOWモキュメンタリー『PORTAL-X』で主演を務める柄本時生 “ポータル”と呼ばれる扉の先に広がる、この世界とは別の歴史を辿った並行世界(パラレルワールド)をレポートするドキュメンタリー番組として進んでいく本作。ある世界では、強力な侵略植物による食糧難が起こり、またある世界では極度の少子化が進んでいる。こうした各世界の“失敗事例”を教訓として活かすべく、様々なポータルに足を運び、その現状をリポートするのが、柄本演じる新人リポーターのカイフの役目となる。
起こりうる未来について考えてもらえる作品
低予算ながらも世界的大ヒットとなった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や白石晃士監督によるホラー『ノロイ』などのモキュメンタリー、フェイクドキュメンタリーと呼ばれる作品を鑑賞したことはあったという柄本だが「“モキュメンタリー”という単語自体は今回のお話をいただいて“はじめまして”でした」と語るように、これまで俳優として出演したことはなく、今回あらためてジャンルとしてその面白さを意識したという。 モキュメンタリーという作風に加えて、本作の魅力は作品のテーマ性の鋭さ。柄本は「とにかく、将来的に絶対にありうることや実際に起こっていることを描いているのが面白かった」と語るが、“ポータル”と呼ばれる扉の先のパラレルワールドの現実=リアリティが、モキュメンタリーとしての面白さをさらに強化している。 食糧難を解決する画期的な新食材“ハイパーベジタブル”に安易に飛びついた結果、それが侵略植物となり、さらなる食糧難が起きてしまった世界を描く『フードインベーダー』、地底人という“異形の存在”との共存とその崩壊を2編にわたり描く『フロム・アンダーグラウンド』と『ディア・アンダーグラウンド』など、一見シュールでコミカルな設定のようで、“対岸の火事”と笑っていられない厳しい現実を鋭く描き出す。 中でも柄本が「一番“おぉっ!”と衝撃を受けた」と言うのが、極端な少子高齢化が進んだ世界で、15年前に生まれた“日本で最後の子ども”の姿を描く『ラストベイビー』だ。 「種子法の話(『フードインベーダー』)も面白かったですけど、子どもがいなくなるということは“未来”が確実になくなる――先がなくて、もう無理なんだということを一番分かりやすく見せてくれますよね。あと、個人的に好きなのは、運に頼りきった世界を描く『LACK LUCK』ですね。他のエピソードが、“もっと早く対策をしておけば……”という、ある意味での怠惰の結果を描いているけど、このエピソードは運という個人の責任の問題を描いているところが異色で面白かったですね」 モキュメンタリーという点で、普段以上により自然な演技や生々しさ、臨場感を意識した部分はあったのだろうか? 「いや、そこは意識せずにやりました。逆に(モキュメンタリーであるということを)意識しちゃうのが、僕は怖かったですね」。 あくまでドキュメンタリーとして進み、カイフは各ポータルの現状を取材するリポーターであるため、カイフ自身が画面に映ることもあるが、それ以上に取材対象者たちが話をするシーンが多いのも本作の特徴である。 「完成した作品を観て、そこはすごく嬉しかったですね。主演・柄本時生、伊藤万理華ってあるけど、僕らはあんまり出てこない(笑)。その光景はすごく良かったですね。例えば、地底人がインタビューに答えるシーンも、実際は監督がカメラを回しながらカイフのセリフを話していて、僕は後から声を入れているので、作品を観るまで、地底人がああいうビジュアルってことも知らなかったんです(笑)。監督のオタク気質が作品の細かい部分に反映されていて素晴らしいです。僕自身、あまり社会勉強をせずにやってきた人間なんですけど、この作品を通じていろんなことを知り、考えるきっかけになりました。ぜひ起こりうる未来について考えてもらえる作品になっていたら嬉しいです」