“生活音”になった爆発音 イラク軍「モスル奪還作戦」前線地帯を行く
過激派組織「イスラム国」(IS)からモスルを奪還できるのはいつか。イラク軍などによる要衝の街の陥落作戦はいまも続いている。この作戦の前線地帯で、フォトグラファーの鈴木雄介氏が見たものは――。
最終局面を迎える作戦
2014年6月、ISに街全体を占拠されたイラク第二の都市モスル。人口約180万人を擁するこの街は、イラクにおけるISの最大拠点である。 昨年10月からアメリカ主導の有志連合とイラク軍・イラク連邦警察による奪還作戦が始まった。今年 1月にはチグリス川を挟んで向かいの東部が取り戻され、現在ISの支配地域は北西部の17地区を残すのみとなっている。イラク陸軍参謀総長は奪還作戦が5月中に完了するとの見通しを示しているが、未だ50万人近くの市民がこの地域に残り、食料、水、医療がほぼない状態で暮らしているという。 2017年4月後半、最終局面を迎えつつあるイラク内のISとの戦いを自分の目で見るために僕はモスルに向かった。
紙のように曲がったシャッター
イラク連邦警察の同行許可を得て、モスル郊外の基地から車に乗ること15分ほど。グチャグチャに折れ曲がった鉄筋が剥き出しの工場や、まるで巨人に踏み潰されたかのように瓦礫と化した住宅を道の両側に眺めながら、戦闘の前線地帯へと入っていった。 それまでまばらに見えていた人影が全くなくなり、まるでゴーストタウンに迷い込んだようだ。あらゆる建物に激しい戦闘の後をうかがわせる銃痕が残り、商店のシャッターは クシャクシャに丸めた紙のようにひん曲がっている。車を降りて、胸と背中に分厚い鋼鉄のプレートが入った10キロほどの重たい防弾ベストとヘルメットを身につけ、カメラを両肩にかけた。 道端には米軍の空爆でぽっかりと大きなクレーターができ、ガラス片や建物の瓦礫が散乱していて、足元を取られて転びそうだ。ISの銃撃でバキバキになった窓ガラスのまま走る警察や軍の装甲車両が時折そばを通るばかりで、迫撃砲が着弾する爆発音や銃撃戦の音以外に人々が生活する音が聞こえてこない。かつて人口180万人近くが暮らした街は、不気味な静けさに包まれていた。