NCAAの新方針「大学生選手への給与支払い」はなぜ、大リーグにとってマイナスなのか(鈴村裕輔)
【メジャーリーグ通信】 米国の大学スポーツの統括団体である全米大学体育協会(NCAA)やサウスイースタン・カンファレンスなど有力なカンファレンスは、大学が学生選手に給与を支払うことを認める方針を示した。 【 事件簿 】大谷が初キャンプで気色ばんだ「ブラジャー事件」を報じた当時の紙面 従来、NCAAは学生の本分を勉学とし、勉学と競技の両立が原則であり、競技を優先して勉学をおろそかにすることは認められないとしてきた。 公式戦への出場や奨学金の受給資格と成績を結び付けたり、教育に関係ない金銭の受領も禁じ、選手の肖像権の商業利用などは認めなかったりしたことは、NCAAの方針を象徴する。 そのため、卒業後にプロとならない選手は氏名、画像、肖像などのパブリシティー権の利用による報酬を受ける機会を失ってきた。 ただ、NCAAは選手たちの活躍によって利益を上げている。そのため、選手が自らの活躍への金銭的な対価を得られないことは、NCAAによる搾取との批判も根強かった。 NCAAなどによる今回の対応は、学生からの提訴や各州での法整備が進んだことを受けたものであり、路線の転換を意味する。 ■競技間格差の拡大 一方でNCAA会長のチャーリー・ベイカーは、大多数の選手がパブリシティー権を行使できず、人気の高い競技や特定の有力選手との格差が拡大することを懸念している。 確かに、現在でもアメリカンフットボールやバスケットボールのように人気が高く、奨学金も充実している競技は学生にとっても好ましい競技である。 しかし、人気の高くない種目や最下位であるディビジョンⅢでは、選手がパブリシティー権の行使の問題などとかかわりがないのも事実だ。 野球も人気種目ながら奨学金の質や量、注目度はアメリカンフットボールやバスケットボールに劣る。 今後、選手によるパブリシティー権の行使が普及し、注目度の高い競技に金銭的な恩恵を与えることが常態化すればどうなるか。優れた選手ほどその能力の対価をより多く得られる競技を選び、大学スポーツにおける野球の存在感の低下が加速しかねない。あるいは大学側がより多くの利益を得られる競技の偏重が起きかねない。 結果的に大リーグに進む選手が少なくなれば、NCAAの判断は実は球界の空洞化を招きかねないものだということが分かる。 今回のNCAAの措置が球界に与える影響は、長期的に見れば小さくないのである。 (鈴村裕輔/野球文化学会会長・名城大准教授)