イスラエル、世界遺産があるレバノン都市を空爆 事前に避難指示も19人死亡
レバノン東部ベカー渓谷(高原)の都市バールベック周辺で30日、イスラエルの空爆があり、女性8人を含む19人が殺害されたと、レバノン保健省が発表した。 バールベック全域と、隣接する二つの町には、イスラエル軍が避難指示を出していた。これを受け、住民数万人が避難していた。 バールベックのムスタファ・アルシェル市長は、バールベック地域で30日午後、20回以上の空爆が報告されたとBBCに話した。うち5回は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている古代ローマ神殿群があるバールベック市内だったとした。 一方、イスラエル軍は、バールベックとレバノン南部ナバティエにある、イスラム教シーア派組織ヒズボラの指揮統制センターとインフラを攻撃したと発表した。また、ベカー渓谷にあるヒズボラの燃料貯蔵庫も標的にしたと述べた。 レバノンの国営通信社は、ドゥリス町でディーゼル燃料のタンクが攻撃されたと伝えた。 ヒズボラは前日、新たな最高指導者として、副指導者ナイム・カセム師を選出したと発表。カセム師は30日、イスラエル軍に殺害された前指導者ハッサン・ナスララ師の路線を引き継ぎ、イスラエルに対する戦争計画を継続すると、非公表の場所から演説した。また、ヒズボラが停戦を「懇願」することはないとした。カセム師をめぐっては、ヒズボラを支援するイランに逃亡したとの報道が出ている。 イスラエル軍は数週間にわたる空爆で、レバノン南部とベイルート南郊に壊滅的な被害をもたらした。現在、ヒズボラの影響力と支持が大きい東部に、攻撃を拡大しているとみられる。 ■住民らパニック状態に イスラエル軍は30日朝、バールベック全域と、隣接するアイン・ブルダイとドゥリスに避難指示を出し、「ヒズボラ側に対し強硬に行動する」と警告した。 これを受け、住民や他の地域から避難してきた家族らの間でパニックが発生したと、レバノン女性民主集会(RDFL)のプログラム・マネージャーは話した。 インターネットに投稿された動画には、避難の車で主要道路が大渋滞している様子が映っていた。 バールベックのアルシェル市長は、2時間以内に約5万人が避難したとみている。ただ、「さまざまな理由で」残ると決めた住民も多かったと説明。「イスラエルが何を標的にしたのかは不明だが、バールベックに弾薬庫や武器庫はない」と述べた。 レバノン保健省は、バールベック地区のサリビ農場でイスラエルによる攻撃があり、女性3人を含む11人が殺害されたと発表。ベドナエルであった空爆では、5人の女性を含む8人が殺害されたとした。また、ベカー渓谷の町ソモールでの攻撃では11人が殺害されたとした。 アルシェル市長によると、バールベックの世界遺産は空爆の被害を受けなかった。この遺跡は紀元1世紀にさかのぼり、世界で最大級かつ最も保存状態の良いローマ神殿群とされる。 ユネスコは30日、バールベックのユピテル神殿の写真を伴ったXへの投稿で、中東全域、とりわけレバノンの世界遺産が脅威にさらされていると警告。「これらは全人類の遺産であり、決して標的にされるべきではない」と訴えた。 (英語記事 Israel strikes historic Lebanese city of Baalbek after ordering evacuation)
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