このままでは部員1人に… 15キロの装束での演舞、伝統の「鹿踊り」 存続かけた舞いの結果は
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】伝統の「鹿踊り」はこちら 15キロの装束で迫力ある舞い
コロナ禍で公演回数が激減
岩手県内では各地に伝統芸能を学ぶ部活動が存在する。 鬼剣舞と並び、岩手を代表する民俗芸能である「鹿踊(しし・おど)り」。 その伝統を引き継ごうと活動しているのが、奥州市にある岩谷堂高校の鹿踊部だ。 その伝統校の部活動が最近、存続の危機に直面しているという。 新型コロナウイルスの影響で、校外での公演回数が激減。新入部員の勧誘が困難になり、部員数が3年生9人と1年生1人だけになってしまった。 3年生が秋に引退してしまうと、本来8人で踊るべき鹿踊りの演舞ができない。大ピンチである。
重さ15キロの装束、ハードな踊り
夕暮れ時、岩谷堂高校の校庭を訪ねると、雨に湿った芝生の上で高校生たちが最後の公演に向けて必死で練習をしていた。 鹿踊は鹿頭を含めて重さ15キロもある装束を身にまとい、腰を低く落として足を上げて演舞する。 太鼓と唄、踊りを1人の踊り子がこなす、ハードな踊りだ。 その多くを今、女子部員が担う。 1997年に旧岩谷堂農林高の同好会として始まった伝統のある岩谷堂高校では現在、部員10人のうち9人が女子なのだ。 唯一の男子部員である菅野翔さん(18)は「体験入学のときに鹿踊部の演舞を見て『格好いいな』と思って入部した。同性がいないので、ちょっと話しづらいときもあるけれど、でもやっぱり女性の方が唄の声が出るので、僕は迫力があっていいと思います」と女子部員に囲まれながら話す。
最後の望みをかけ文化祭へ
3年生は進路選択もあり、10月末で引退する。 部員はなんとかして地域の伝統文化を守りたいと、最後の望みをかけて近く開かれる文化祭で在校生や来年入学予定の中学生に入部を呼びかける予定だ。 部長の佐藤未来さん(18)は「一人でもいい。鹿踊部に入ってもらって、私たちの伝統を引き継いでほしい」と未来の踊り手に期待をつなぐ。 (2022年10月取材) <後日談>部員らの願いが通じたのか、岩谷堂高校の鹿踊部には2023年春、8人の新入部員が加わった。現在は22人で活動を続けている。 <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。 書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>