「残業代ゼロ」はサラリーマンにとってもメリットがある
「新たな労働時間制度」がもたらすメリットは
なかなか厳しい現実です。若者も壮年も、どちらにおいても良い方向への変化とはいえません。したがって、日本全体の所得がなかなか増えない中で、労働制度をどうするのかは選択(配分)の問題です。 「平成24年就業構造基本調査」によると、「会社などの役員を除く雇用者」のうち、例えば週に49時間以上(かつ年200日以上)働いているのは、年収600~699万円では35.9%、700~799万円では36.4%、800~899万円では37.3%と所得とともに増えています。残業により所得が増える傾向があるのはその通りでしょう。そのため、「新たな労働時間制度」がより広く適用されれば、ざっと3割くらいのサラリーマンの所得が減ってしまうかもしれません。 それでも、私は過労死などの悲惨な結果を今よりは避けられると考えるので「新たな労働時間制度」改革に賛成です。また、雇用の流動化が進む可能性があります。自由な労働移動がもう少しあった方が望ましいと考えます。加えて、産業競争力会議で指摘されている「非製造業分野の低生産性」にもメスを入れなければ日本経済の停滞感は解消されません。 とはいえ、現在の案では年収1000万円以上を対象とするなどとしているため、影響は大きくはありません。サラリーマンのうち影響があるのは全体の1%にも満たないでしょう。「平成24年就業構造基本調査」によると、所得が1000万円以上の「会社などの役員を除く雇用者」の雇用者全体(除く自営業者)に占める割合は約2%です。さらにたとえば、そのうち200日以上かつ週43時間以上働いているのは約68%にすぎません。 今回の制度改革案は不十分でも、さらにそれが進むことで、日本人の働き方へ直接的な影響が出てくるでしょう。そしてそれは、ワークライフバランス、生産性の向上、失業なき労働移動などの視点から実現が望まれます。現状は守られているようで、実際には正規職員は失業や過重労働というリスクを抱えています。 (文責/釣 雅雄・岡山大学経済学部准教授)