「野球の話題ばかり」が悔しくて 元巨人・林昌範さんが挑んだ自動車教習所の組織変革
プロ野球3球団で16年間投手として活躍した林昌範さん(40)は、2017年の引退後、家業の船橋中央自動車学校(千葉県船橋市)に入り、今は専務を務めています。林さんはプロ野球の経験を、家業の人事制度改革や従業員とのコミュニケーションに生かしつつ、コロナ禍への対応で危機に直面した経験も踏まえ、少子化を乗り越えるための経営戦略も練り始めています。後編では、一流のプロ野球選手から、後継ぎ経営者として地域に開かれた新しい時代の教習所を目指すまでの進化に迫ります。
アンケートに詰まった「答え」
林さんは巨人、日本ハム、DeNAで活躍し、引退後すぐに父・敬さんが経営する船橋中央自動車学校に入りました。現在は系列校の鎌ヶ谷自動車学校(同県鎌ヶ谷市)の運営を任され、着実に後継ぎとしての経験を積んでいます。家業の傍ら野球解説の仕事も続け、グラウンドを訪ねるたび、古巣の球団フロントと経営に関する意見交換を重ねています。そこで得たヒントの一つが、教習所の卒業生のアンケートを生かすことでした(前編参照)。 同校のアンケートは、手書きでびっしり感想が書かれています。例えば、「丁寧にわかるまで指導してくれた」、「何度質問しても、わかるまで教えてくれた」という内容です。それらはホームページでも公開されています。 「アンケートなんて面倒くさいと思う人もいるはずなのに、丁寧に書き込んでくれる。入社して衝撃を受けたことの一つでした。中には指導員の個人名を挙げておほめいただくこともあります。教習所には『怖い』というイメージがありますが、卒業するのが寂しくなったという声もいただいています」 もちろん、感謝や喜びの声ばかりではありません。「教え方がわかりにくいなどという声もあります。指導員歴が長いベテランでも目配りが届かないことがある。だからこそ、アンケートには大きな『答え』が詰まっているのです」 千葉県警の資料(21年)によると、指定教習所卒業生の人身事故率(免許取得後1年以内)は、船橋中央自動車学校が0.25%、鎌ヶ谷自動車学校が0.33%で、千葉県内の教習所平均(0.39%)を下回っています。こうしたクオリティーを保つ、あるいはさらに高めるための源泉はアンケートではないかーー。そう考えた林さんは、アンケートの回答を全員に定期的に共有するようにしたといいます。「アンケートの回答はボーナスの評価対象にもしています」