TOKYOからEDOへ!5時間強の圧巻のエンターテインメント、木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』開幕!(コメントあり)
黙阿弥の言葉の美しさ、古典の力を再認識
振袖姿の盗賊、お嬢吉三を演じるのは坂口涼太郎。カーボンのように黒光りした振袖を纏い、楚々とした歩き方、女形独特の台詞回しで登場する。が、度々ぶっきらぼうな言葉を吐いて、不良少年らしさも大いに発揮。歌舞伎の名台詞、「月も朧(おぼろ)に白魚の──」は、お嬢吉三の一番の見せ場だが、杉原ならではの斬新で大胆、かつグッと胸に迫る演出に息を呑む。坂口は廓の場面に登場する新造花巻役でも、コミカルな演技で笑いをもたらした。 お嬢吉三とお坊吉の百両を巡る争いをおさめたのは、元坊主の和尚吉三だ。一幕では長髪姿。脛に大柄のタトゥー、肩をいからせてぐいぐい歩く様子は無敵感にあふれ、とてもクール。ふたりと義兄弟の契りを結ぶ場面、その迫力に圧倒されるも、頼り甲斐のある兄貴分らしさの中に、いつもどこか暗い影が見え隠れするのもぐっとくる。 三人の盗賊の話と同時に進行するのは、現行の大歌舞伎では上演されることのない廓の物語だ。藤野涼子演じる新吉原の花魁一重は、プライドの高さと美しさを強烈に放ち魅力的。彼女にぞっこんで、廓に通い続ける文里を真摯に演じる眞島秀和の佇まいも目が離せない。夫の文里を支え続ける妻、おしづを演じる緒川たまきは、健気かつ強い意志を感じさせる振る舞いで胸を打つ。 そんな新吉原での物語と、庚申丸と百両を巡る三人の盗賊のストーリーは、木ノ下歌舞伎が初演以来約160年ぶりに復活させたという「地獄の場」(田中、須賀も小林の朝比奈、閻魔大王の役で登場)を挟み、三幕七場「本郷火の見櫓の場」に向けてぐいぐいと突き進む。現代語と古語の台詞が違和感なく連なる中、黙阿弥の言葉の美しさ、心地よいリズムにハッとさせられる瞬間が、そこここに散りばめられる5時間強。衣裳や音楽の力も相まって、「あれ? これっていまの東京の話?」と思わせる木ノ下歌舞伎らしいマジックと古典の力を、あらためて認識させられる圧巻の舞台だ。 取材・文:加藤智子 撮影:細野晋司