クリント・イーストウッドの名作映画『グラン・トリノ』から飛び出したフォード・グラントリノは希少な7.0L V8エンジン搭載の1972年型正規輸入車!?
2024年3月10日(日)、千葉市中央区フェスティバルウォーク蘇我・共用第二駐車場にて、アメリカ車専門誌『アメ車マガジン』(文友舎刊)主催の『SPRING Party!』が開催された。会場には新旧様々なアメリカ車が200台以上集まった。今回はそんなエントリー車の中からクリント・イーストウッド監督・主演による映画『グラン・トリノ』に出演した1972年型フォード・グラントリノ・スポーツを紹介する。車体色はグリーンメタリックで、429cu-inコブラジェットV8を搭載した映画と同じ仕様となる。しかも、新車時から日本に存在する正規輸入車両というから大変希少な車両である。 REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu) 【画像】『SPRING Party!』に参加したフォード・グラントリノ。
クリント・イーストウッド監督・主演の名作『グラン・トリノ』をキミは見たか?
日常生活に切っても切れないクルマは、映画においてもシーンを盛り上げるのに欠かせない重要な存在となる。クルマは単なる小道具ではない。クルマの持つ個性を登場人物に重ね合わせることで、その人物の性格や立場、生い立ち、思想信条、趣味趣向を視覚的に表現する重要なキャラクターとなるのだ。それ故に名作と呼ばれる映画ほど車種選びに抜かりがなく、テーマやストーリーに沿った「これぞ」という1台が選ばれることになる。 そのようにクルマを効果的に使用した名作の中でも、2009年に日本で公開されたクリント・イーストウッド監督・主演の『グラン・トリノ』は、およそベストと言っても差し支えない素晴らしい映画であった。 https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2661 ・STORY 50年間務めたフォードの工場を引退し、妻にも先立たれた隠居老人のウォルト・コワルスキー。彼は朝鮮戦争での辛い記憶から逃れられず、古くからの友人と愛犬以外にはなかなか心を開かなかった。そんな彼の唯一の宝物が自身が製造に携わった1972年型フォード・グラントリノだった。自動車産業の衰退に伴い、自宅のあるデトロイト郊外の住宅街からは白人住民の姿が消え、代わりに黒人やアジア系が増えて行くが、彼はそのことを快く思ってはいなかった。そんなある日、自宅の庭でモン族の少年タオをギャングから助けたことをきっかけに彼の家族と交流するようになり、ウォルトは徐々に心を開いて行くのだが……。 この映画のテーマは「古き良きアメリカの終焉と再生」だ。映画を単なる「昔は良かった」という回顧趣味で終わらせることなく、往時の豊かで強いアメリカの裏側にあった闇の部分……朝鮮戦争やベトナム戦争、そして現代アメリカに横たわる移民問題や人種問題、家族との断絶などにもメスを入れている。 主人公は人種的な言動を繰り返す頑固者として描かれているが、それは朝鮮戦争で投降してきた少年兵を射殺したという苦い記憶の裏返しであったし、彼が白人男性のステロタイプであるマッチョイズムを体現するかのような生き方た課したのも過去の自分と向き合えない弱さを隠すための方便であった。だが、そのせいで息子ふたりとは距離ができてしまい、血を分けた肉親からは疎んじられる存在となっている。 そして、隣家に引っ越してきたモン族のタオ一家。彼らモン族はベトナムやラオス、中国南西部に住む少数民族であったが、ベトナムやラオスでは文化や民族の違いによって迫害を受けていたこともあり、ベトナム戦争中はアメリカに協力し、CIAの特殊部隊や米陸軍特殊部隊グリーンベレーの現地雇用兵として参戦した。だが、アメリカが敗北すると現地に取り残された彼らは共産政権からのますますの圧政に耐えきれなくなって国を捨てて難民となった。過去の経緯からアメリカ政府は彼らを受け入れたものの、人種差別が根強く残るアメリカ社会になかなか溶け込めず、タオのように職にもつけずに底辺の生活に身を置くか、あるいはフォン(スパイダー)のようにギャングを組織して犯罪に奔るしか彼らには選択肢がなかったのだ。アメリカの負の歴史の犠牲者でもある彼らだが、アジア系すべてに人種的な偏見を持つウォルトは、物語の序盤、彼らに対して差別的な言動を隠そうともしなかった。 ウォルトとタオ。普通に考えれば交わることなど考えられないこのふたりを結びつけたのが、フォンに強要されてタオが盗もうとして失敗した1972年型フォード・グラントリノ・スポーツだった。