アンソニー・ウォンにとって“映画”とは? オファーを引き受ける条件を明かす
『八仙飯店之人肉饅頭』や『インファナル・アフェア』、『エグザイル/絆』、『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』など数々の作品に出演してきた香港の俳優アンソニー・ウォン。現在公開中の『白日青春-生きてこそ-』では、香港に住む難民の少年と心を通わす、孤独なタクシー運転手チャン・バクヤッ(陳白日)を演じている。第59回金馬奨で最優秀主演男優賞にも輝いたウォンに、出演の背景や現在の香港映画界について話を聞いた。 【写真】『白日青春-生きてこそ-』場面カット(多数あり) ーー本作にはどのような経緯で出演することになったのでしょうか? アンソニー・ウォン(以下、ウォン):ちょうど暇な時期だったのでやろうかなと(笑)。 ーー(笑)。 ウォン:この作品の制作会社とは以前から付き合いがあって、よく知っている会社だったんです。オファーをもらって脚本を読んでみたら、いろいろ調整は必要だけど、映画にするにはいい題材だと思いました。 ーーラウ・コックルイ監督にとって本作が長編デビュー作となりました。『淪落の人』のオリヴァー・チャン監督もそうでしたが、若手監督とのタッグが続きましたね。 ウォン:オリヴァー・チャンと比べると、ラウ・コックルイはもっと若い新人監督です。この先彼が映画監督として成功するかどうかはわかりませんが、可能性はあると思いますよ。 ーー本作は台湾の第59回金馬奨で最優秀オリジナル脚本賞、最優秀新人監督賞、最優秀主演男優賞を受賞するという快挙も成し遂げました。 ウォン:この映画が賞をもらったというのは、香港における難民問題というこの作品が扱ったテーマが特別だったからだと個人的には思います。賞レースというものは、スポーツで言うと決まったルールがあって、その中で順位をつけるのでわかりやすいですが、映画をはじめとする芸術になると、評価基準はいくつもあるわけです。国や時期によっても変わってきますし、役者や監督、脚本で評価されることもある。5人の審査員がいるとすると、審査の基準がみんな違ってくると思うんです。 ーーなるほど。アンソニーさんが映画の評価するときの基準はどこにあるんですか? ウォン:私は俳優の演技や作品のストーリーには興味がありません。興味があるのは技術です。編集や撮影など、映像的にどうなっているか。映画というものは結局表現のひとつにしか過ぎず、たとえ役者のセリフがなくても、映像の繋げ方によって物語をきちんと描いていけるわけです。私にとって映画は、ある種の“言葉”なんですよね。脚本で判断する人もいますが、ウォン・カーウァイの作品には脚本がありません。にもかかわらず、映像で観るととても美しく、素晴らしい作品なわけです。話が長くなりましたが、賞を受賞するというのは喜ばしいことではありますが、監督も脚本家も役者も、ラッキーかどうかに尽きると思います。 ーー近年は台湾のテレビシリーズなどにも出演されているアンソニーさんですが、俳優としてどのような作品に出たいか、その判断基準は変わってきているのでしょうか? ウォン:昔はとにかくどんな作品にも出るというスタンスでした。なぜかと言うと、単純にお金がなかったから。そして今あまり作品に出ていないのは、単純にオファーがないからです(笑)。ただ、オファーを引き受けるかどうか、その判断基準はいくつかあるんですよ。 ーーそれはどういうものなんですか? ウォン:アンケート調査のように20個くらい項目があって、一つずつ◯か×で判断していきます。その総合評価ということになりますね。たとえば、脚本が×でもギャラが○だったら出演する可能性は大いにあります。逆も然りで、たとえノーギャラでも脚本がものすごく良ければオファーを受けることだってある。また、脚本もギャラも良いけど、監督の前作を観たらものすごく酷かった場合は、引き受けるわけにはいきません。言ってしまえば賞レースと似ていて、ケースバイケースですね。 ーーありがとうございます。前回のインタビューでは、「かつての香港映画は死に、新しい世代の監督たちが作る映画こそがいまの香港映画だ」という旨の発言がありました。ここ数年、香港映画界からはヒット作が生まれ、新しい才能も続々登場し、復活の兆しを見せているように思います。アンソニーさんは今の香港映画界をどのように見ていますか? ウォン:私は物事を判断するときに、あまり期待し過ぎない方がいいと思っています。つい最近も香港映画界では多くの出来事があったのですが、『毒舌弁護人~正義への戦い~』という作品が、興行収入1.21億香港ドル(約22億円)を超え、香港映画の歴代興行収入No.1ヒットを記録しました。これには香港の人たちも大興奮したわけですが、香港映画界全体が盛り上がったかと言うとそうではありません。この状況が数年続けば、復活したと言えるのではないでしょうか。香港映画界はまだまだ不安定な状況だと思います。
宮川翔