巨大地震警戒「混乱」97% 南海トラフ臨時情報運用5年「認知不十分」自治体7割
南海トラフ地震の想定震源域内でマグニチュード(M)8以上の地震が起き、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、静岡県と35市町の防災担当部署の97・2%が「混乱する」と想定していることが、31日の臨時情報の運用開始5年に合わせ静岡新聞社が実施したアンケートで分かった。そもそも「情報の認知が進んでいない」とする自治体は7割超。複雑な制度が定着せず、発表時に混乱する可能性を鮮明に示す結果となった。 アンケートでは、藤枝市が「その他」を選んだのを除いて、県と34市町が巨大地震警戒が発表された際に「住民に何かしらの混乱が懸念される」を選択した。M7の地震が発生した場合に発表される「臨時情報(巨大地震注意)」でも、91・7%が「住民に何かしらの混乱が懸念される」と回答。いずれも「ほとんどの住民が落ち着いて行動する」を選んだ自治体はなかった。 臨時情報は、大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づいて内閣総理大臣が「警戒宣言」を発令する地震予知を前提とした体制から転換し、導入された制度。後発地震に警戒しつつ、社会経済活動を維持することを前提とする。湖西市は「社会生活の維持と事前避難の相反する行動を求めていて市民から理解を得にくい」と指摘する。 住民への認知度を尋ねる質問では、「広く理解されているとは言えない」が72・2%だった。「広く知られているが、正確に理解さていない懸念がある」の19・4%を合わせると、9割以上の自治体が、情報の理解度不足を認識していることが分かった。 一方で、臨時情報の防災上の効果を問うと、72・2%が「住民が理解して行動すれば効果がある」を選んだ。「早期避難の見直しが可能となる」(菊川市)、「適切な行動を取れば後発地震の人的被害軽減につながる」(県、沼津市など)と期待する声があった。 「後発地震がいつ発生するか分からず、一概に効果があるとは言い切れない」と活用の難しさを指摘する意見も目立った。袋井市は「1~2週間で取るべき行動が具体性に欠ける」として「効果が薄いので見直しが必要」を選択した。 <メモ>南海トラフ地震臨時情報は、想定震源域でマグニチュード(M)8以上の地震が起きた場合には「巨大地震警戒」が発表され、後発地震の発生可能性が高まったことを注意喚起する。多くの住民は防災意識を高めつつ普段通りの生活を送ればよいが、一部の地域は事前避難が必要となる。M7の地震や通常と異なるゆっくりすべりが観測された場合は「巨大地震注意」が出される。事前避難は求めない。従前の大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく「警戒宣言」は社会全体に強い行動制限を求め、社会の混乱や経済への影響が懸念されたため原則行動制限のない臨時情報が制度化された。本紙が2015年に実施した大震法アンケートでは8割超の自治体が「警戒宣言が出たら混乱する」と回答した。
静岡新聞社