僅差判定負けでリベンジ成らず。内山高志が直面する引退危機
プロボクシングのダブル世界戦が31日、東京の大田区総合体育館で行われ、WBA世界Sフェザー級タイトル戦では、前王者の内山高志(37、ワタナベ)が、4月にTKOで敗れたスーパー王者のジェスエル・コラレス(25、パナマ)にダイレクトリマッチでのリベンジ戦に挑んだ。内山は5回にダウンを奪いながらも、うまく逃げられ最後の決定打に欠き1-2の僅差判定で敗れた。 またWBAライトフライ級王者の田口良一(30、ワタナベ)は、同級3位のカルロス・カニサレス(23、ベネズエラ)と対戦、三者三様のドローで辛くも5度目の防衛戦に成功した。試合後、内山は去就についての明言を避けたが、世界戦で2連敗した37歳のボクサーは再び引退の危機に直面することになった。
12ラウンド終了のゴングが鳴ると、内山は笑うでもなく悔しがるでもなくコーナーに帰った。綺麗な顔。疲労感もそこにはない。陣営に肩車され勝者の体を繕ったコラレスの方が左目の下を腫らし明らかに疲れ果てていた。判定が出るまでの時間を使って内山は四方に頭を下げた。まるで何かを暗示するかのように。判定は、117-110で一人がコラレス、114-113で、もう一人が内山。残り一人は、先に115-112のジャッジだけが読み上げられ「スティル(防衛)」という日本訛りの英語が場内に響いた。4000人を超える観客で埋まった大田区総合体育館は、憂鬱な空気と「えーー?」という疑念の声に覆われた。 「悔しいけど、リターンマッチを受けてもらい、負けたということは、それが実力。コラレスが強かったということ。スピードがあって本当にやり辛かった。判定は妥当かなと思う。お客さんは僕びいきで見てくれたのだろうが、リベンジなのだからハッキリとしたポイントを取らなきゃだめだった。ノックアウトしないと」 敗者は、悔しさを押し殺すように時折、自虐気味に苦笑いを浮かべた。 一方初防衛に成功したパナマ人は「確信はなかったが、勝ったという手ごたえはあった」とはしゃいだ。 本物の真剣を持って斬り合うような緊迫感に包まれた時間が過ぎていく。3分間という1ラウンドの時間がこんなにも短く感じた試合は、いつ以来だろう。 サウスポースタイルのコラレスは、スタンスを大きく開いて重心を落とし、ダイナマイトと表現された内山の右の届かない距離をキープしながら慎重に大胆にスピードに乗った左を打ち込んでくる。前回よりもしっかりとガードを固めてプレスをかける内山は、その左を見事なまでの反応で空を切らせるのだが、互いに誘い合うカウンター狙いの緊張感の中で、明確な一撃を与えることができない。 「ボディから崩したかったが、パンチが当たらなかった」 内山が、左ジャブを使い始めると、すぐさま構えをスイッチして目先を変えてくる。4ラウンドに入ると、コラレスは手数とリズムに重点を置き始め、軽いパンチを出し続けるようになった。 「内山がリングの真ん中で動かないで戦おうとするのはわかっていた」とは、コラレスの回想。彼はそれを見越した上で、リスクを減らしたまま、ジャッジにアピールするためのブローを繰り返した。 WBAのジャッジは手数を優先的に取る傾向にあるため内山はポイントを失い続けることになるのだ。 5ラウンドにやっと動きが出た。終了間際に内山の左フックがカウンターになった。浅いパンチだったが、タイミングがあって、コラレスは尻餅をつく。ダメージブローではなかったがダウンを奪ったのだ。 「あそこからペースを取れはじめた」 そして10ラウンドに最大のハイライトが訪れる。正面から拳を縦に突き刺すように伸ばす内山独特のボディブローが炸裂したのだ。コラレスは腰を曲げ、苦悶の表情。だがクリンチでしがみつき、内山の追撃を南米の選手らしい“裏テクニック”で、はぐらかしてKO危機を脱出したのである。 そのインターバルでは陣営はアイシング用の氷嚢をコラレスの腹部に当てていた。いつもインターバルの動きを注意してチェックしているが、腹部へのアイシングなど初めて見た。それほど効いていたのだろう。