「夫婦別姓」とはいかなる問題か? ──認識の世代間ギャップを超えるために
夫婦別姓問題の枠組みを問いなおす
以上述べてきたように、選択的夫婦別姓制度の是非をめぐる議論では、この問題をいかなる問題として枠づけるかという「フレーミング」も重要になるだろう。 繰り返しになるが、選択的夫婦別姓制度の論点は、「同姓か別姓か」ではなく「強制的同姓」の賛否を問うものであり、この枠組みこそが議論の前提とされなければならない。「夫婦別姓も認めるべきか」と問うのではなく、「夫婦同姓の強制は是か非か」と問うことが重要なのである。 当然ながら、姓の選択をめぐる問題の主な当事者はこれから結婚しようと考える若年世代であり、まず若年層の要望や意識が政治にしっかり反映されることが重要である。 とはいえ、同時に、この問題の当事者が若年世代や事実婚カップルだけの問題でないという点にも留意しなければならない。事実婚を選択するということは簡単なことではなく大きな覚悟がいる決断であり、致し方なく一方が改姓をして法律婚をしたという潜在的な当事者は、数字では決して表れないものの、数多く存在しているからである。 世代間ギャップを超えるためにも、現に生じているさまざまな問題の現状や多様な当事者の存在がもっと社会に知られる必要がある。姓をめぐって困難や生きづらさを抱える人々の多様な声に耳を傾け、姓の選択肢を増やすことで社会にもたらされるメリットを考えていかなければならない。
【Profile】
阪井 裕一郎 慶應義塾大学文学部准教授。専門は家族社会学。1981年、愛知県生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。著書に『結婚の社会学』(ちくま新書)、『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社、2022年)、『仲人の近代』(青弓社、2021年)など