<敗北・モディの政治転換はあるのか?>インド有権者が求めた行動と世界が求めることの乖離
モディはどこまで「負け」だったのか
モディとBJPは予想を完全に覆す大きな敗北を喫した。しかし、それ程負けた訳でもないとも言い得る。 BJPの得票率は19年の前回選挙に比べて37.3%から36.5%に少々下がったに過ぎない。BJPは真に全国的な政党に脱皮するために弱点のインド南部に力を入れたが、事実、その得票率は18%から24%に拡大した。しかし、小選挙区制のゆえに、得票率の拡大は一つの議席獲得にもつながらなかった。 他方、北部はBJPの地盤であるが、前回選挙に比べて55議席を失い、これがこたえた。最も酷かったのは最大の人口を持ち政治的に最重要のウッタル・プラデーシュ州で、19年には80議席のうち62議席(得票率:50%)を獲得したが、今回は33議席(得票率:41%)と振るわなかった。 要するに、BJPが抜きん出て最大の党であることに変わりはない。最大野党の国民会議派は得票率を19.4%から21.1%に伸ばしたが、BJPは国民会議派の議席(99議席)のほぼ倍、得票率は倍以上ということになる。
以上のように見れば、モディが今回の敗北を選挙戦術の誤算によるものと考える(少なくとも現状維持は出来たと考える)可能性は排除されないように思われる。今回の選挙では国民会議派が主導する野党連合の候補者調整が成功したという側面(ザカリアも指摘している)があったこともある。 だとすれば、モディは権威主義的な色彩の濃いヒンズー国家主義の政策を今後も強めてその支持基盤の強化を図ろうとするかも知れない。これを転換することはないのではないか。ヒンズー国家主義はモディのアイデンティティそのもののようである。
議会制民主主義は健全化するか
しかし、そのようなモディの選択は、日本を含む西側諸国が望むところではない。これら諸国はモディが過激なヒンズー国家主義を封印することを欲している。これら諸国が希望するインドは西側と親和性のあるインドである。そのようなインドは、抑圧と封殺とは無縁で宗派色の薄い多様性を貴ぶ温和な民主主義の下で経済の改革と繁栄を目指すインドであろう。 この先、モディの行動を抑制するものがあるのだろうか。6月9日に発足したモディの内閣は、内務、財務、外務、国防の主要閣僚を留任させる継続性の内閣であるが、BJP単独では議会の過半数を失ったために、30人の閣僚のうち4人を連立を組む政党から起用した。モディはこれまで内閣の存在をほぼ無視し、重要な決定は彼自身が行って来たらしいが、この程度のことが抑制要因となるかは疑問に思われる。 より重要なことは、議会がその本来の役割を回復し、内政であれ、外交であれ、政権に対する監視機能を発揮できるかにある。国民会議派の議席数は99であるが、野党連合全体では237で与党連合の293に対して数字の上では見劣りしない。 国民会議派の意気は上がっているようであるが、よくその役割を果たし得るか、その真価を問われるであろう――楽観はできない。
岡崎研究所