ヨーロッパで「アナログ盤」のニーズがあるのには理由がある 久石譲
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(11月30日放送)に作曲家・指揮者・ピアニストの久石譲が出演。映画音楽の制作について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。11月27日(月)~12月1日(金)のゲストは作曲家・指揮者・ピアニストの久石譲。4日目は、米ビルボードで1位を獲得したアルバム『A Symphonic Celebration』について― 黒木)今年(2023年)、アルバム『A Symphonic Celebration』がリリースされました。 久石)黒いジャケットに黄色いマークのついた「ドイツ・グラモフォン」というクラシックレーベルの名門がありますが、そこと専属契約しまして、第1弾として発売したのが『A Symphonic Celebration』というアルバムです。これが世界中で売れていて、米ビルボードのランキングで1位になったのです。 黒木)2部門で1位を獲得したということです。 久石)それから数ヵ月経って、アナログ盤が出ました。アナログのLP盤を同じ内容で出したのですが、ヨーロッパでは根強いアナログ盤のニーズがあるのですよ。 黒木)そうなのですね。 久石)この数年は世界的にアナログ盤に戻ってきていますね。おそらくアナログ盤の音の暖かさに再び惹かれ出したのだと思います。映画もそうですよね。ある時期ハリウッド映画でも、CGで凄まじいアクションシーンを普通にやっていました。ところが最近、やはり「人間が実際にやらないとダメだよね」と変わってきている。同じようなことが音楽でも起きているのかなと感じます。 黒木)音楽の温もりをアナログ盤から感じるということですよね。
久石)物理的にも正解なのです。デジタルは周波数がギザギザなのですよ。でも、アナログはギザギザがない。上から下まで一直線です。「音の肌触りが違う」というのはムードで言っているだけではなく、現実にそういうところがあるのです。 黒木)CDからLP盤まで、ぜひ聴かせていただきたいと思います。指揮者としても活躍なさっており、2021年には日本センチュリー交響楽団・首席客演指揮者に就任されました。2025年4月からは音楽監督に就任するそうですが、これは「いろいろな分野を」ということですか? 久石)私は作曲家なので、「プロの指揮者ではない」とずっと思っているのです。 黒木)職業の指揮者ではないということですね。 久石)長い間オーケストラと仕事をしていると、一生に1度くらい、全責任を負う立場でオーケストラと付き合ってもいいかなと思ったのです。難しいのは、いまのような首席客演指揮者だと、音楽だけを考えていればいいのですよ。でも音楽監督になると、オーケストラのメンバーからいろいろな決定事項にも触れる必要があるから、組織としてのオーケストラ自体にも踏み込まなければならない。だからヨーロッパのミュージックディレクター・音楽監督はスポンサーへの接待で、パーティーにも必ず出なければいけないのです。 黒木)仕事が多岐に渡るのですね。 久石)そういうことが苦手なので、嫌だなと思いながらやっています。 黒木)他の方の曲を聴くより、自分で作曲していた方が楽だとおっしゃっていましたが。 久石)例えば、来月はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を振るとします。「春の祭典」、「火の鳥」、「ペトルーシュカ」で三大バレエです。でも、「春の祭典」よりも「ペトルーシュカ」の方が演奏が難しいのですよ。これをやるとなると、数ヵ月前から相当、勉強しないといけないのです。その暇があったら同じくらいの長さの曲が書ける。「なぜ人の曲をこんなに勉強しなければいけないのだ」と思いながらやっています。 黒木)でも、インプットですよね。 久石)そうです。前向きに捉えています。