パリ五輪で注目の「愛の讃歌」も! クミコ×松村雄基が語る日本語で歌う“ニッポン・シャンソン”の魅力
――今回のコンサートでも歌われる「愛しかない時」はクミコさんご自身で訳詞をつけられていますが、どのような思いで言葉を紡がれたんでしょうか? クミコ もうずいぶん昔のこと……20代の頃ですからね。銀巴里(※かつて銀座にあったシャンソン喫茶)で歌いはじめたけど、あんまり自分で歌える曲がない中で「これは私に合っている気がする」って思ったんですよね。 たまたまポーランドの歌手の方が日本に来た時にコンサートでこの曲を歌ったんですけど、それまで私が知っている歌手の人たちと全く違って、革ジャンにGパンという姿で、叫ぶように、世界を切り裂くように歌っていたんです。もうそれを見て「かっけーーー!!!」って思って(笑)。カッコいいし、こういうふうに時代に切り込んでいくような歌が歌いたいって思ったんです。愛や恋だけじゃなく、その向こう側の世界のこと――平和や戦争のことを入れ込みたいなと。その気持ちはいまでもあるんですけど、その時、急に自分で言葉をつけようと思ってしまったんです。 そのポーランドの歌手はアンナ・プリュクナル(※反体制派としてポーランドを追放された)という方なんですけど、ポーランドはナチスに蹂躙された国ですが、叫ぶように歌う姿を見て「私も叫ぶように歌いたい!」とあの詞を書きました。 ――40年以上前に書かれた訳詞が、いまなお生々しく、時代に問いかけるような強いメッセージを持っているのを感じます。 クミコ 本当にその通りで、むしろいまだからこそと感じます。もしかして、いまでも私がシャンソンを歌っている理由のひとつは、歌の中に世界が見えているからなのかもしれません。いまなお、世界各地で起きている不条理なことを歌の中に歌い込めるのがシャンソンなんですよね。 なんでこんな不条理なことが世の中に起きるのか? もっと言うと、なんで人は生きて、死んでいかなくちゃいけないのか? 全てが「わからない」中で、シャンソンを歌うことで、そこにほんの少しだけ答えを見つけられるような気がしてしまうんですよね。シャンソンを歌うって、自分と、そして世界と対話するような気持ちになったり、自分がこの世に存在することの意味を見出せるような気になるんですよね。世の中に対し、傍観者ではなく“参戦”していく自分を感じることができるんです。いまの世界を生きている人間のひとりとして、私は歌を武器にしているんだと。 ――松村さんは、50代になってからシャンソンの魅力に目覚め、ご自身で歌うようになったそうですが、改めてシャンソンだから伝えられるものというのはどんなことだとお感じですか? 松村 いまのクミコさんのお話を伺って、本当にその通りだなと思ったんですけど、歌うことによって人生を生きるヒントがあるような気がしますし、歌うことによって僕は誰かに生きるヒントを感じていただきたいんです。 なんで人はこうやって生きて死んでいくのか? つらいことばかりで、100のうち99は修行みたいなものですよ(苦笑)。「それでも、人生は捨てたもんじゃないよね?」という人生讃歌がお芝居なんだと僕は教わってきました。 まさに歌もそうで、生きるヒントが歌の中に散りばめられていると思うんですが、中でも歌詞とメロディ、リズムで迫ってくるような魅力がシャンソンにはあると思うんですよね。 僕は「そして今は」という曲が好きなんですけど、ボレロの延々と繰り返されるリズムとメロディの中で歌われる曲で、歌詞は絶望のどん底なんですよ(苦笑)。好きな人に捨てられて死にたい。僕はもう抜け殻だ……と歌っているんですけど、リズムはボレロ――つまり終わらないんです。人生って何があってもこのまま進むんだと。「そして今は」というタイトルの通り、いまは死にそうだけど、これから生きていかなくちゃいけないんだということを感じさせてくれるんです。それは僕の勝手な解釈なのかもしれないけど、そうやって「人生、捨てたもんじゃない」って思わせてくれる曲が多いんですよ、シャンソンには。 クミコさんともお話ししたんですけど、僕は50前後で出会ったからこそ、シャンソンの魅力がわかったのかもしれません。20代のヤンチャな役ばかり演じていた頃だったら、気づいていなかったでしょうね(笑)。曲がりなりにも50年以上を生きてきて、いろんなことを経験したからこそなのかな。 ――クミコさんから見て、松村さんの歌声はいかがですか? クミコ 収録で初めてお聴きしたんですけど、「マイウェイ」と「そして今は」というどちらも大作ですよね。それが両方とも本当に素晴らしくて……。真っすぐな歌い方で真っすぐに歌を届けられている姿を見て、歌い手として初心に帰るような気持ちにさせていただきました。 その真摯な姿勢というのは歌を歌う者に絶対に必要なものですし、それに加えて、さらに力強く絶対にあきらめない、光を見ながら歩いていくんだという思い――絶望の中から立ち上がる励ましをもらえるようなところがあって、雄基さんの「そして今は」は、本当に最高峰のものだと思います。いろんな方が歌っていますけど、正直、こんなに素晴らしい「そして今は」を聴いたことはないですね。力強くて真っすぐで清潔なんです。「あぁ、そうだよね。この曲はこうやって歌うものなんだ」と気づかされるような歌声でした。 すごく難しい曲で、私自身は若い頃に1度くらいしか歌ったことがなかったですし、他の方が歌っているのを聴いても、どこかで「いや、そんなことないでしょ」という思いが見え隠れするようなところがあったんですけど、雄基さんの歌は「絶対にこの光を逃さないから! この絶望の沼から這い上がるから!」という真っすぐな背中が見えてきて、この曲自体を見直すきっかけになりました。かなり感動しました。今回、本当に必見必聴です! 松村 いや、嬉しい限りです。精一杯、いまの自分を素敵なシャンソンの力を借りてお届けしたいと思います。 クミコ シャンソンに縁のない方でも、このメンツですから絶対に楽しめると思います。絶対に損はさせないし、どれか必ず、心のどこかに引っかかり、永遠のお友達になってくれる曲があると思いますので、ぜひ試しに来てみてください。 取材・文・撮影:黒豆直樹 <公演情報> ニッポン・シャンソン・フェスティバル2024 公演日程:2024年10月23日(水) 会場:東京国際フォーラム ホールC