フリーアナウンサー・神田愛花『大人女子は、花よりアスパラの先っちょ』
2月下旬、桜の開花予想が発表された。東京は全国で最も早い3月18日。このニュースを受けて、中学・高校時代の仲良し4人組のグループLINEが稼働した。そして、3月20日にお花見ディナーをしようと決まった。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~48回)はこちら すぐにエリートキャリアウーマンの子が皇居近くのイタリアンを予約。高さ4mはある大きな窓から、お濠(ほり)と桜と大手町のビル群が見渡せるお店だ。私たちが通った学校の近くで、見慣れた景色。(おっしゃー!)と期待が膨らんだ。 それから数日、寒い日が続いた。開花予想日は後ろにずれ、私たちのディナーの日は一輪も咲かないことが確定。だが、誰も「別日にしない?」という提案はしなかった。私たちはもう、家庭や仕事など、各々何かしら責任を抱えて生きている、大人女子。何か口実がないと、遊び目的の夜間の外出は難しいのだ。夫や同僚に、「どうしても今夜でないとダメなんだな」と思わせる必要がある。よって”お花見”はまさに、季節が限定された最高の口実。集まってただお酒を飲みながらお喋りしたいだけの私たちにとって、正直、桜の有無はどうでもいい。予定通り、全員お店に集合した。 予約していたお料理は″季節の特別8皿コース″。最初に″桜のシャンパン″と名付けられたピンク色のアルコールドリンクを、店員さんがこれ見よがしに運んできた。″今夜はこういうのが飲みたいんでしょー?″と言わんばかりの笑顔。1杯目はビールが飲みたい私たちだったが、店員さんの期待に応えるように、「わぁすごい!」「キレイ!」と反応。すると「お写真撮りましょうか?」と提案され、全員一瞬(え? なんで写真?)という顔になったが、「……あぁ! 写真ね」と、ご厚意を無下にしないよう、満面の笑みで写真を撮っていただいた。 それからはいつも通り、職場にいる変なオジサンの話や、家事の文句、推しの芸能人の話など、何も残らない会話で時間が過ぎていった。すると一人の子がふと、「もうさ、いつ死ぬかわからないんだからさ」と言った。その言葉は皆の心にグサッと刺さった。そして揃って、「ほんとだね……」と声が出た。 年明けに能登半島で大きな地震が起き、多くの方が亡くなられた。羽田空港では航空機同士の衝突事故が起き、5人の命が一瞬で奪われた。年齢を重ねるほど、私はたまたまその場にいなかっただけで、もしかしたら自分の身に起きていたことかも……と思うようになる。「こうして普通に生きていられることが有り難い」という意見で一致。そして、それぞれ予定を調整して集合するのは大変だけれど、「この先、せめて月1回は集まろう!」と一致団結した。 ◆突如現れた太い″アレ″ 残りの人生に思いを馳せる中、″ホワイトアスパラのクリーム煮″なるお料理がサーブされた。「ん!?」。瞬時に全員目を見開いた。どう見ても、″アレ″にしか見えないのだ!! 浅いお皿に注がれた白いスープの中から、太いホワイトアスパラの先っぽが、立った状態で、5cmほどニュッと顔を出していた。そんなモノを目の前に出されたら!? 私たちは大人女子。考えることも当然大人だ! 顔を見合わせニヤつき、「コレって!」「どう見てもアレ!」と大笑い。それぞれバッグからスマホを取り出し、自分の前に運ばれてきたソレを、よりソレっぽく見える角度から撮影しまくる。ものすごい盛り上がりを見せた。 だが、最後に運ばれてきた私のお皿は……「え!?」。アスパラがスープの中に隠れているではないか! (なんで私だけ!?)。店員さんに「どうして私のアスパラだけ勃っていないんですか?」と聞いた。すると「運ぶ際に倒れてしまいました、すみません」とのこと。店員さんが去っても怒り心頭。「これじゃ意味ないじゃん!」と言い続ける私に、「ごもっとも」と深く頷く友人たち。本来、そんな意味なんてないが、酷く落ち込んでディナーを終えた。 帰り道のお濠沿い。学生の頃に見ていたのと同じ景色だけれど、当時は″花より団子″だった。30年経ち、清純さがすっかり消えた私たちは今夜、″花よりアスパラの先っちょ″で盛り上がった。数十年後、お婆ちゃんになった時。またこの景色を皆で見ながら、(今度は″花より何″で盛り上がるのかなぁ?)と考えると、歳をとるのが少し楽しみになった。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年5月3日号より イラスト・文:神田愛花
FRIDAYデジタル