日記(9月8日)
最後の文章は、こうつづられた。〈今日はここまでとさせてください。明日また書けましたら、明日〉。3年前に膵臓がんで亡くなった直木賞作家の山本文緒さんは、告知されてからの日々を日記「無人島のふたり」(新潮社)に書き残した▼突然の宣告だった。体調不良で受診し、ステージ4で余命4カ月とされた。順調だった仕事や楽しい思い出を振り返りながら、症状を和らげる緩和ケアの様子をしたためた。病が徐々に体をむしばむ中、行きつけのカフェで夫と過ごしたり、好きな物を食べたりする時間が何よりも大切だと記す。旅立ちは58歳。早過ぎた▼日本人の2人に1人は、がんを患うと言われる。研究の先駆者として知られる浅川町出身の吉田富三博士は80年ほど前、体のどこにでも発症する全身病だと警鐘を鳴らした。禁煙し、生活習慣を見直すだけでなく、定期的に検診を受け、一刻も早く発見するのが命を守る鍵になる▼9月はがん征圧月間。苦しむのは患者本人だけではなく、家族や周囲の人も一緒だ。悲しみの連鎖を断つため、正しい知識を身に付けたい。明日も、その次の日も、かけがえのない人生のページに穏やかな暮らしがあふれるよう。<2024・9・8>