<紡ぐ思い・センバツ2021北海>選手へのエール 野球部OB・04年主将 竹村貴智さん(34) /北海道
◇緊張の舞台で躍動を 甲子園球場が完成80周年を迎えた2004年夏。第86回全国高校野球選手権大会で、始球式のマウンドに立った。開会式直後の第1試合。観衆約4万人の視線を一身に集め、「覚えているのは緊張したことしかない」。ど真ん中を狙ったボールは大きく外にそれ、思わずマウンドで舌を出した。 1924年夏、第10回大会に合わせて完成した甲子園の開幕試合で北海中(当時)の手島義美投手が1球目を投じたことから、完成80年の節目で北海に白羽の矢が立った。 主将として始球式に臨むことになった竹村さんは中堅手。エースだった瀬川隼郎(はやお)投手(元日本ハム)に教わり、練習を重ねた。しかし、甲子園のマウンドは独特の雰囲気に包まれ、キャッチャーミットが遠く感じた。 その80年前、手島投手は気持ちを静めるため1球目を思い切りバックネットにぶつけたという。「わざと暴投した手島さんの気持ちもよく分かった」 甲子園の空気を肌で感じる貴重な経験となったが、チームはその土を踏むことはできなかった。主将として、今も悔いが残る。「チームを勝利という同じ方向に向かせることができていたのか。もっと他の選手に厳しい言葉を掛けてもよかったのではないか」 主将となった直後の03年秋。全道大会準決勝で、駒大苫小牧に0―10でコールド負けを喫した。「駒大苫小牧を倒すぞ」。その冬、練習に明け暮れたが、思いは空回りした。04年の春と夏は、全道大会にすら進むことができなかった。 最後の夏を終え、甲子園で躍動する駒大苫小牧の試合をテレビで見つめた。北海道勢初の優勝。中学のシニア時代から知っている佐々木孝介主将(現・同校監督)らの姿が目に留まる。「応援はしていたが、複雑だった。悔しさのほうが大きかったかもしれない」 昨秋、札幌円山球場で全道大会決勝を観戦し、後輩たちに声援を送った。接戦を1―0で制し、全道大会5試合無失策で有終の美を飾った。「久しぶりにレベルの高い高校野球を見ることができた。全道大会で見せた野球を甲子園でも見せてほしい」 センバツ初戦は、あの日と同じ開幕試合。「選手には勝ち負けは関係なく、全国の舞台を楽しんでもらいたい」。緊張の1球に思いを巡らせ、躍動を祈った。【三沢邦彦】=随時掲載