官房機密費や規正法改正を巡る岸田自民の“浮世離れ”に非難轟々!──堤伸輔「この全貌を知って国民が怒らないとお思いか?」
ところがわが日本では、政権与党を中心とする政治家を会計上・税務上で特権的に優遇する“慣行”が、永田町から国の隅々にまで根を張っていることが、今回明らかになった。日本版のディープステートがあったのだ。「世界を裏で支配している」といったところまで話が広がるアメリカ版に比べたら、ずいぶんみみっちいけれど。 それが出来上がったのは、現野党も含む政治家たちが、これまで政治改革を議論するフリをしながら、政治資金規正法や公職選挙法に“抜け穴”を潜ませ、一般国民とは異なる“原則”を存続させてきたからにほかならない。それを見て見ぬフリし、時には政治家の脱法行為を行政的に是認してきた官僚たちにも責任は少なからずある。 この全貌を知って国民が怒らないとお思いか? こうして、国民や民間企業なら明らかに制度逸脱で行政処分や行政罰を受けそうなことが、あるいは違法行為とみなされ刑事罰を科されそうなことが、政治の世界では見咎められないままになっている。その極め付きとも言いうることが、最近、「中国新聞」のスクープ(5月9日付)で表面化した。 2013年の参院選の際に、時の安倍晋三総理から東日本の選挙区のある立候補者に、100万円の現金が手渡された可能性がある、というのだ。ただの札束ではない。その出所は「内閣官房報償費」、通称「官房機密費」だったかもしれないと、記事は複数の証言をもとに指摘している。
諸外国との付合いなどを始めとして、国家には「表に出しづらい支出」もありうるということで、国の施策を推進するため、使途非公表を認められ、事後のチェックも一切ないお金がある。それが官房機密費で、毎月、およそ1億円が国庫を預かる官僚から政権ナンバー2の官房長官に渡される。歴代官房長官は、それを総理大臣や与党の国会対策委員長などに1千万円単位で渡してきたとされる。紛れもなく「税金」から出ているお金であり、もとはといえば「国民のお金」だ。 それを、ある政党の「総裁」が、自党の推す候補者を当選させるために使っていたとしたら、これは「目的外使用」もいいところ、重大な犯罪行為ではないか。 国民から、国民のお金を使って選挙が盗まれた、と言い換えても、決して言い過ぎにはならないはずだ。どこか特定の政党を支持するつもりなどなく、ただただ国の予算の一部としてもらうべく国民として納税の義務を果たしたはずのお金が、ある政治家によって、その属する政党を勝たせるために“私的利用”される。こんなことを民主主義が、国民世論が許すと思ったら、それ以上の“浮世離れ”はない。しかも、機密費の犯罪的流用は、今回出た例のみしかないとは、まず思えない。 アメリカの「ディープステート」顔負けの「裏政治・会計・税務慣行」が日本には存在し、その行き着いたところでは臆面もなく国民の税金が脱法的に使われている。岸田総理、あなたは「政治改革には終わりはありません」としばらく前に言いましたよね。ぜひ、この機密費問題も「真摯」に調べて究明し、改革を成し遂げてみせてください。え、「改革に終わりはない」とは、「終わりに到達させないから終わりはない」という意味だったとは言いませんよね?(5月20日記)
堤伸輔 1956年、熊本県生まれ。1980年、東京大学文学部を卒業し、新潮社に入社。作家・松本清張を担当し、国内・海外の取材に数多く同行する。2004年から2009年まで国際情報誌『フォーサイト』編集長。2020年末に新潮社を退社。BS-TBS『報道1930』のほか、テレビ朝日の『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』『中居正広の土曜日な会』などの番組でレギュラー/ゲストの解説者・コメンテーターを務める。 編集・神谷 晃(GQ)