漂流する防衛増税議論と与党内で表面化する対立
防衛増税の議論は今年末も先送りの方向
政府は昨年末に、防衛力の抜本的な強化のための防衛費増額とその財源確保を決めた。その財源には法人、所得、たばこの3税で2027年度までに1兆円強を賄う増税策が含まれた。法人税は主に大企業を対象に税額に4.0~4.5%の付加税を課す。所得税は税額に1%の付加税を課す一方、復興特別所得税の税率を1%引き下げて課税期間を延ばす。たばこ税は1本当たり3円相当を段階的に引き上げる。 しかし、増税を通じた財源確保について、自民党内から予想以上に強い反発が出たため、昨年末の与党税制大綱には、防衛増税の実施を盛り込むことができなかった。その後1年間、防衛費増税の議論は棚上げされ続けてきたが、1年経って再び議論が先送りされる可能性が高まっている。政府が時限的な所得税の減税実施の方針を決めたことが、それとは逆方向の増税の議論を行うことの大きな障害となっている。 2022年末の与党税制改正大綱では、防衛増税は「2027年度に向けて複数年かけて」とされた。そして開始時期については「2024年以降の適切な時期」とだけ記された。さらに今年10月に、岸田首相が2024年度からの増税を実施しない考えを表明したことで、2024年度に増税が開始される可能性はほぼなくなった。 このままだと、増税による恒久財源の確保ができないまま、2027年度にかけて防衛費増額が進められていくことになる。その場合、増額分はなし崩し的に国債発行で賄われることになるのではないか。また、政府が閣議決定した防衛増税を何年経っても実施できない事態となれば、政府に対する信認も損なわれかねない。
自民党内、公明党からは増税開始時期決定の先送りの議論が高まる
自民党の宮沢税制調査会長は、防衛増税を2024年度に実施できないとしても、実施時期は今年の年末に決めるべきだ、と強く主張している。 2022年末の与党税制改正大綱では、防衛増税は「複数年かけ段階的に実施し2027年度に1兆円強を確保する」と記されていたが、防衛費増額は2023年度から2027年度までの5年間の計画であり、2024年度に増税が実施できないのであれば、残りは3年間しかないことになる。そこで、「複数年かけて」の増税実施となると、2025年度~2027年度、あるいは2026年度~2027年度の2つしか選択肢はない、という点を宮沢税制調査会長は指摘している。そして同氏は、どちらになるとしても、「予見可能性といった意味からも今年の年末に決めるべきだ」としているのである。 ところが公明党の税制調査会長の西田氏は、「(増税か減税か)政権がどちらを向いているか分かりやすく発信することが大事だ」と強調している。減税の決定と同時の増税実施時期の決定を避け、開始時期の決定の先送りを示唆している。また西田氏は、改めて増税対象の税目を討議すべきだとし、増税策全体を見直すべき、との考えも示している。 このように、防衛増税を巡っては、自民と公明との間の意見の相違が表面化しているが、自民党内でも、岸田首相も入った党幹部による「6者会合」では、増税の決定時期を来年以降とする方向性を確認した、と報じられている。 宮沢税制調査会長が孤立している様子も推測されるが、最終的には増税実施時期は2024年度与党税制改正大綱に盛り込まれない可能性が高まっているように見える。その場合、防衛費増税議論はさらに漂流することになってしまうだろう。