Chevon初のワンマンツアー東京公演。バンドが生み出す熱狂に宿る、切実な思いとは
7月22日、北海道札幌市在住バンド・Chevonが〈Chevon 1st ONE MAN TOUR LIVE 2024『冥冥』〉を恵比寿LIQUID ROOMで開催した。そのライヴの模様をレポートする。
「暗いところにいる人は、暗いところからしか救えない」
札幌発の3人組バンド、Chevonの勢いが止まらない。 Chevonが活動を開始させたのは2021年6月。結成からまだ3年と少ししか経っていないが、全国のフェスやイベントに呼ばれ、各地で深い爪痕を残しては現場ベースで支持を拡大させている。 7月17日から始まった初のワンマンツアー〈冥冥〉の東京公演、LIQUIDROOMでの光景は、上り調子のバンドの勢いを象徴するものだった。先にスタンバイしていたサポートドラマーのビートをバックにKtjm(ギター)とオオノタツヤ(ベース)、やや遅れて谷絹茉優(ヴォーカル)が登場。3人揃ってお立ち台に飛び乗り、1曲目の「Banquet」をスタートさせると、フロアから大きな歓声が上がった。Chevonの魅力と言えば、アグレッシヴなバンドサウンドと変幻自在のヴォーカル。両翼を担うKtjmとオオノが攻めのフレージングを披露すれば、観客が飛び跳ねたりしながら反応する。中央で抜群の存在感を発揮する谷絹が2オクターブの跳躍を含むメロディを唄い上げれば、先ほどよりもさらに大きな歓声が上がり、両手を広げれば、絶叫に近い歓声がシンガロングに変わる。Chevonというバンドに期待し興奮する観客のエネルギーも、〈このバンドが大きくなっていく様子を追いかけていたい〉と観る人に思わせるバンドの演奏も、もはやLIQUIDROOMに収まりきっていないスケール感。このテンションが、アッパーチューンを4曲続けた序盤のみならず、終演まで続くこととなる。 ――と、Chevonというバンドが生み出す熱狂を、さも冷静に描写してみたが、かく言う自分もこのバンドに惹かれ、ライヴ会場を訪れている一人である。『音楽と人』2024年4月号での初インタビューで、3人はバンドの目的意識を淀みなく理路整然と語ってくれた。その3週間後、下北沢シャングリラで初めて観たライヴでのChevonは、インタビュー時に比べるとあまりにも無防備かつ無垢で、そのギャップに動揺した記憶がある。心のざわめきの答え合わせがしたくて、7月15日の〈LuckyFes’24〉、そしてこの日のLIQUIDROOMと半年で3回ライヴを観た。 3本とも違う内容のライヴだったが、〈熱量が尋常ではないほど高い〉というのが共通の感想だ。ボーカロイド/歌い手文化をルーツとしつつ多ジャンルを掛け合わせるその音楽性と同様に、どのライヴにも伝えたい言葉、情報がギュッと詰まっている。そして、ソングライター兼ヴォーカリストとしてバンドのメッセージを司る谷絹は、〈こっちを向かせたい〉〈何としても伝えたい〉と突き動かされるように唄い、Ktjmとオオノもまた、同じ熱量で演奏に向かっていく。〈LuckyFes’24〉ではKtjmのギターの弦が切れてしまうトラブルがあり、ギターの復活を待つ間、谷絹がアカペラで1曲唄うというシーンがあった。しかもCDにしか収録されていないレア曲を。トラブルをリカバリーするためとはいえ、ここまでやるかと驚いた。 そう、彼らのライヴでバンドのテンションが緩んだ瞬間を一度も見たことがない。振り返れば、この日のLIQUIDROOM公演も、アンコールを含む全18曲、ずっと最大出力のようなライヴだった。「喉の調子がずっとよくなくてしっかり唄えず、最近セトリから外していました。喉が復活したので唄わせていただきます」という正直なMCを添えて「ハルキゲニア」をセトリ入りさせていたことからも、〈今の自分の持てるすべてを〉という姿勢が伝わってくる。全身全霊の姿に、インタビューで聞いたバンド名の由来の話を思い出す。同時に、同じくインタビューでの「自分にとっては愛=求めても叶わないもの」「誰かに愛をかけるのは、愛してほしいという気持ちの裏返し」という谷絹の発言がようやく腑に落ちた。 Chevon(=ヤギの食用肉)というバンド名は、楽曲をゼロから生み出す谷絹の苗字から来ていて、自分の身を削って生み出した音楽をみんなに提供するという意味が込められている。私がこの話から連想したのは仏典「ジャータカ」のウサギの神話。腹を空かせた人に姿を変えた神様が目の前に現れた時、他の動物は森で獲ってきた果物や魚などを差し出すが、ウサギは「私は何も持っていない」「だから私の肉を食べてくれ」と火の中に飛び込む。 「ジャータカ」のウサギと同じようにChevonもまた、〈自分は無条件で愛される〉とは到底思えず、だからこそ身を捧げるようにライヴしているのではないだろうか。燃え残りなく燃焼しきることが、彼らなりの、Chevonの音楽を求めてくれる人たちに対する愛情の傾け方。熱気高まるフロアに自分は〈ノリにノッているバンドの勢い〉というよりも、もっと切実なものを感じるのだ。 「暗いところにいる人は、暗いところからしか救えない。だからこそ私は救われてはいけない」と谷絹はMCで語っていたが、みずからにカルマを課すこのバンドが、無条件の愛を信じられるようになるのはまだ先かもしれない。ブームのサイクルの速いバンドシーンに揉まれている最中ならば、なおさらだろう。だけどライヴハウスにある〈差し出しただけ返ってくる愛〉は信じられている。谷絹は「あなたたちがいるのは私たちがいるからであり、私たちがいるのはあなたたちがいるから。これからも今見えているあなたたちを、大事にしていこうと思います」と実感を言葉にした。Ktjmはフロアを見渡しながら笑顔で、オオノはお客さんと一緒に歌詞を口ずさみながら演奏している。 〈いまはそれしか、/あぁ、それしかしてあげられない〉と唄う「セメテモノダンス」の前、谷絹は「このツアーを通してとっても特別になった曲を唄います。目の前のあなたが受け取ってくれることで、私が救われます」と言い、フロアにいる一人ひとりを指しながら唄った。フロアの人たちは、曲に合わせて声を上げたり身体を動かしたりして気持ちを返している。ささやかでも通じ合えた記憶によって、心が温まる。その連鎖が明日へ希望を繋ぐ。愛や光を信じるのが難しい世界でも、腐らずに生きていたいという人たちの共感を集めながら、Chevonを中心とした温もりの輪は、今後さらに広がっていくだろう。 【SETLIST】 01 Banquet 02 No.4 03 冥冥 04 革命的ステップの夜 05 ボクらの夏休み戦争 06 アオタカゼ 07 ハルキゲニア 08 薄明光線 09 愛の轍 10 サクラループ 11 大行侵 12 ですとらくしょん!! 13 ノックブーツ 14 セメテモノダンス 15 antlion 16 ダンス・デカダンス ENCORE 17 スピンアウト 18 光ってろ正義
蜂須賀ちなみ