パリ・パラリンピックへの思いを語る木村敬一（滋賀県公館）

　パリ・パラリンピックの閉会式。卓球の和田なつきとともに旗手を務めた競泳の木村敬一（滋賀県栗東市出身）は、笑顔で行進していた。50メートル自由形、100メートルバタフライ（ともに視覚障害S11）で2冠。全盲スイマーは33歳で自己記録を更新し、進化を証明した。 【写真】木村選手の活躍に大盛り上がりの故郷 　今年の年明け。「泳ぎの常識を全然知らなかったなと思いました」。JR京都駅近くの喫茶店で行った取材で打ち明けられた。5度目のパラ出場を決めていた「レジェンド」の言葉に驚かされた。 　女子200メートルバタフライでロンドン、リオデジャネイロ五輪ともに銅メダルを獲得した星奈津美さんに昨年から指導を仰ぎ、フォームの改良に取り組んでいた。数多くの欠点を指摘されたという。 　2歳で全盲となり、人が泳ぐ姿を見たことがない。「見たら分かることって、世の中にいろいろある。それを自分は知らなくて、考えて泳ぐわけですけど。でも考えるというのは、見るに及ばないんですよね」 　正直、はっとさせられた。全盲の障害者にとって泳法の習得がどれほど難しいか。逆に言えば、われわれがどれだけ視覚に頼って生きているか。 　取材ではパラスポーツへの注目度も話題に上った。「日本が活躍し続ければ、応援してくれる人はいる。残念ながら日本人は活躍しないと見てくれない。選手は自分のパフォーマンスをしっかり上げないといけない」と率直な思いを話してくれた。そしてパリで、有言実行して見せた。 　温かな拍手に包まれたパリ・パラの閉会式の映像を見て、3年前に取材した無観客の国立競技場を思い出した。「みんながパラスポーツを生で観戦する文化が根付いてほしい」。開幕前にそう語っていたのも木村だった。 　幸いにも木村の出身地の滋賀では、大規模な大会がめじろ押しだ。11月に日本パラ水泳選手権、来年10月には全国障害者スポーツ大会が開かれる。 　パラスポーツの価値は、さまざまな「気付き」が得られることにある。「見る」ことで得られる感動や学びはきっと大きいはずだ。