【ネタバレあり】本編鑑賞後の人だけ読んで!小ネタ満載『デッドプール&ウルヴァリン』詳細解説レビュー
ついに公開となった2大ヒーローがチームアップする『デッドプール&ウルヴァリン』(公開中)。公私共に仲が良い姿を見せているデッドプール役のライアン・レイノルズとウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンの2大スターが主演を務めるというだけで大きな話題となっているのだが、本作はそれ以外にも前提となる、アメコミ映画ファンが高い期待と熱い眼差しを送る「説明すると長くなるんだけどね」という要素が多数存在している。映画本編をレビューする前に、まずは知っておくとより納得できる、『デッドプール&ウルヴァリン』の前提状況を解説していこう。 【写真を見る】ウルヴァリン役ヒュー・ジャックマンとローラ役のダフネ・キーンのエモいツーショット ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■「デッドプール」と「X-MEN」映画化におけるスタジオ概況 マーベル・スタジオが製作する、2008年に公開された『アイアンマン』からスタートしたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が動き始める以前、マーベル・コミックスを原作とした映画作品は、「スパイダーマン」シリーズを映画化し、現在も映像化の権利を保持し続けているソニー・ピクチャーズと、「X-MEN」シリーズを映画化した20世紀FOXが映画化の権利を持っていた。20世紀FOXは、「X-MEN」関連シリーズをスピンオフも含めると20作品、「ファンタスティック・フォー」シリーズを2作、さらに『デアデビル』(03)、『エレクトラ』(05)などのマーベル・コミックス原作作品を多数映画化していたため、MCU以前のアメコミ映画ムーブメントの立役者であり、現在のアメコミ映画の潮流の礎を築いた存在と言える。 本作の主人公であるデッドプールやウルヴァリンも「X-MEN」シリーズに属するキャラクターであったため、その権利は20世紀FOXが保持した状況にあった。ジャックマン演じるウルヴァリンとレイノルズ演じるデッドプールは、ウルヴァリンの過去を描いた『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09)で共演が実現。しかし、デッドプールのキャラクター性や設定、外見などが大幅に改変されており、その活躍には満足できないファンも多かった(実際にそのことをレイノルズ本人が映画『デッドプール』の中で揶揄している)。その後、レイノルズの尽力によって2016年に原作コミックスのイメージに準拠し、「X-MEN」シリーズのスピンオフという形で『デッドプール』の1作目が実現する。しかし、その翌年にはジャックマンが2000年公開の第1作『X-MEN』から演じ続けてきたウルヴァリン役の引退を宣言した『LOGAN/ローガン』(17)が公開。この微妙なすれ違い的状況から、ファンが望む理想的な形でのデッドプールとウルヴァリンの共演の夢が絶たれてしまうことになる。 2018年に『デッドプール2』が公開され、レイノルズは、劇中でジャックマンのウルヴァリンをこすりまくり、その復活を望むような姿勢を見せた。そして、「デッドプール」第3弾の企画が進み始めたその矢先に大きな事件が起こる。2019年に20世紀FOXがディズニーの傘下に入ることになったのだ。その結果、MCUを制作するマーベル・スタジオにこれまで20世紀FOXが持っていたマーベル・コミックスのキャラクターの権利が戻る形となった。「X-MEN」や「ファンタスティック・フォー」のキャラクターをMCUに合流させることができるようになった反面、これまでの20世紀FOXが作り上げてきた「X-MEN」シリーズは、世界観を含めて刷新されてしまうことが確実となってしまう。 そんな複雑な状況のなかで、本作は“「X-MEN」キャラクターが本格的なMCUに初参戦する作品”であり、“デッドプールが主人公のシリーズ第3弾”であり、“ジャックマンのウルヴァリン復帰作にしてデッドプールとの夢のチームアップ”という、いくつものスペシャルな要素が重なった作品として公開されることが決定。この前置きからも、本作がアメコミ映画ファンにとって、どれだけ期待値が高かったのか伺えるだろう。 ■マニアック&細かすぎる小ネタ満載!瞬き禁止の本編を解説 そして、肝心の内容も20世紀FOXに対するリスペクトも交えた、ある意味情報過多とも言えるマニアックなネタのオンパレードの作品に仕上がっている。 物語は、ウルヴァリンの墓を暴くデッドプール=ウェイド・ウィルソンの姿からスタート。そしてなぜそんなことになっているのか…という説明で、時を少しさかのぼる。そこで描かれるのは、MCUと合流したからということで、いきなりアベンジャーズへの加入を申し出て、面接を受けるデッドプール。面接をするのは、MCUでは常連キャラの筆頭とも言える、ジョン・ファブローが演じるハッピー・ホーガン。アベンジャーズの活躍にまつわる品々に囲まれた部屋での面接は、完全なる空振りに終わる…が、MCUと合流したという雰囲気はほぼここまで。その後は、時空を越えるカオスな本編になだれ込んでいく。 ウェイドは、自分の住む世界=アース10005でデッドプールとしての活動をやめ、成績の振るわない中古自動車販売員として物足りない日々を過ごしつつ、それでも自分を愛してくれる仲間たちに囲まれて暮らしていた。そんな彼の前にディズニープラスのドラマシリーズ「ロキ」に登場した神聖時間軸を守るための組織「TVA」の特殊部隊が出現し、TVAのアース10005支部へと連行される。そこでウェイドは、自分が住む時間軸が”アンカー”と呼ばれる超重要な存在の死によって消失の危機を迎えていることを知る。そのアンカーとは、『LOGAN/ローガン』で死んだウルヴァリンだった。『LOGAN/ローガン』と本作は同じ時間軸の存在であり、ウェイドはウルヴァリンの生死を確認するために、彼の墓を暴くがその死が間違いではないことがわかるだけだった、というのが冒頭のシーン。その後、デッドプールは、TVAが使う時空を越えるデバイスを使って、マルチバースを移動し、別世界のウルヴァリンに助けを求めようとする。 ■マルチバースの様々なウルヴァリンたち!そのなかに… この様々なマルチバースで出会うウルヴァリンとのシークエンスで、マニアックネタが炸裂。原作コミックスの設定と同じ身長160cmのウルヴァリンに始まり、犯罪都市マドリプールで行動する際のアイパッチ姿、コミックス初期に着ていたブラウンスーツ姿、アポカリプスに統治された世界を描く「エイジ・オブ・アポカリプス」の姿、年老いたローガンが活躍する「ウルヴァリン:オールドマン・ローガン」の姿、コミックブックの表紙にだけ登場した赤い髑髏に囲まれた場所での磔にされ拷問される姿など、原作コミックスに登場した様々なパターンのウルヴァリンが登場。それらのローガンはジャックマンが演じていたが、1人だけ、別の人物が混ざっていた。 それは、『マン・オブ・スティール』(13)や『ジャスティス・リーグ』(17)などのDCエクステンデット・ユニバースでスーパーマン役を演じたヘンリー・カヴィル。一部で噂が出ていた「スーパーマンを引退したヘンリー・カヴィルが次のウルヴァリンを演じるのではないか?」というネタを拾ったもの。そんな、知っている人は歓喜、知らない人は唖然という、ネタの奔流をいきなり披露してくるのだ。 最終的に、デッドプールは本作でチームを組む、過去に仲間を失い心に闇を抱えたウルヴァリンと出会い、共にTVAに戻るが、アース10005の滅亡を早めよう考えるTVA支部の長官パラドックス(マシュー・マクファディン)と意見が対立。2人は、アース10005から不要な存在として剪定された結果、“虚無”へと送られてしまう。虚無とは、神聖時間軸を守るために剪定された者たちが放り出される場であり、“忘れられた者たち”が行き着く終着点ともいえるところだ。そこには、巨大な20世紀FOXのロゴも廃棄されており、20世紀FOXも現実の世界から剪定された存在となっていることがメタ的に表現される。 ■虚無で出会う、剪定されたヒーロー&ヴィランたちがヤバすぎる! ここで1度は対立したデッドプールとウルヴァリンだが、そこに現れた無法者と思わしき集団とそれに立ち向かうフードで身を隠した男の登場で2人の争いは中断。フードの下から現れた顔は、キャプテン・アメリカを演じてきたクリス・エヴァンス!ここで、キャプテン・アメリカと合流し、MCU要素が復活するのかと思いきや、彼が発した言葉は「フレーム・オン!」。なんと、エヴァンスがキャプテン・アメリカ以前に演じていた「ファンタスティック・フォー」シリーズのジョニー・ストーム=ヒューマントーチだった。TVAでアベンジャーズの活躍を見せる前振りから高めた期待感を肩透かしさせつつ、豪華キャストの夢の共演で笑わせにくるセンスは流石!また、MCU版「ファンタスティック・フォー」の製作決定に伴い、20世紀FOX版「ファンタスティック・フォー」も新たに剪定された存在であることがわかる点も含めて、ここでのエヴァンスの登場はものすごく絶妙だ。 一方、ヴィランとしてまず登場したのは、シリーズ第1作の『X-MEN』からアーロン・スタンフォード演じるパイロとタイラー・メイン演じるセイバートゥース。ウルヴァリンはセイバートゥースとの戦いに勝利するも、パイロの協力な磁石を使った罠にはまり、デッドプール共々囚われの身となり、虚無を支配するボスの元へと連れていかれる。 虚無を支配するボスのアジトとして、巨大化したまま死亡したアントマンの亡骸を利用した建物が登場。ちなみに、この「巨大化したまま死亡したアントマン」は、コミックスの「ウルヴァリン:オールドマン・ローガン」に登場しているのでそれが元ネタとなっている。そして、ここで待ち構えていたヴィランたちも、旧「X-MEN」から総登場。主なメンバーは、1作目の『X-MEN』からトード、『X-MEN2』(03)からケリー・フー演じるレディ・デスストライク、『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(06)からジャガーノート、『X-MEN:ファーストジェネレーション』(11)からアザゼルなどが顔を揃える。これは「X-MEN」シリーズから主要キャラを揃えることで集大成感を見せ、同シリーズもこの世界から剪定された存在となっていることが示されたとも取ることができる。 そんな状況のなかで、今回のボスキャラであるエマ・コリンが演じるカサンドラ・ノヴァが登場。劇中で説明があるとおり、カサンドラはプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアの双子の妹で、兄の殺害とミュータントの絶滅を目論む凶悪な存在。「X-MEN」シリーズの総決算にはまさにピッタリの存在だと言えるだろう。 敵のアジトからの脱出に成功したデッドプールとウルヴァリンは、デッドプールと同じ衣装を着て、素顔を出したスッキリイケメンのナイスプールとドッグプールと遭遇。ナイスプールは、別次元のデッドプールであり、“虚無”にはほかにもたくさんの別次元からのデッドプールが来ていることが暗示される。 その後、2人はナイスプールからもらったホンダのオデッセイでヒューマントーチの仲間であるカサンドラの組織に対して、レジスタンス活動を行うメンバーを探す旅へ。しかし、その旅の途中でも再び仲間割れが勃発。互いに超再生能力を持っているために、長時間の激闘を経て、疲れ果てた2人は、見知らぬ場所で目を覚ます。そこは、目指していたレジスタンスのアジトであり、そこには、やはり20世紀フォックス絡みで剪定されたヒーローたちの姿があった。 『デアデビル』や『エレクトラ』で活躍したジェニファー・ガーナー演じるエレクトラ・ナチオス、「ブレイド」シリーズの主人公であるウェズリー・スナイプス演じる吸血鬼ハンターのブレイド、『LOGAN/ローガン』で登場したウルヴァリンの遺伝子から生まれたミュータントのダフネ・キーン演じるローラ。この3人は映画に登場したキャラクターだが、さらに驚きのメンバーが。それが、チャニング・テイタム演じるガンビットだ。ガンビットは原作版「X-MEN」に登場する人気キャラクターで、20世紀FOXにて映画化が企画されていた。しかし、テイタムは乗り気ながらもなかなか軌道に乗らず、最終的には20世紀FOXがディズニー傘下に入ったことで企画が消滅したという不遇の存在。ガンビットの映画を楽しみにしていたファンにとっては、最大級の飛び道具的サプライズキャラクターだ。 ちなみに、スナイプスの「ブレイド」シリーズは20世紀FOXではなく、ニューラインシネマ製作。いずれにせよ、彼らもまたヴィラン側と同じく「忘れ去られた存在」として虚無に送られていたのだが、それでもベテランのアメコミ映画ファンには忘れられない存在であることは間違いない。そんな彼らがレジスタンス活動を続けていたという描かれ方と、デッドプールとウルヴァリンと共にチームを組むのはまさに胸熱な展開。新たなチームを組んでホンダオデッセイでカサンドラのアジトへと向かうデッドプールたち。ここでのレジスタンスチームの戦闘シーンは劇中最大の盛り上がりポイントと言っていいだろう レジスタンスのチームは、カサンドラが持つ、相手の脳に干渉するサイキック能力を封印すべく、作戦を展開。ローラがサイキック能力を防ぐジャガーノートのヘルメットを奪い、デッドプールがそれをカサンドラに被せることで形勢逆転に成功する。その状況で、自分が敬愛していたプロフェッサーXは、自分の妹も愛していたに違いないという理由から、ウルヴァリンはカサンドラを殺さないことを選択。この判断を受けて、カサンドラは2人をデッドプールが住んでいたアース10005へと戻す。 ■大量のデッドプールが出現!vsデッドプール・コープス 2人が戻ったことで、TVAのミスター・パラドックスが、虚無へのスパイとしてパイロを送っていたことが判明。虚無での生活を気に入っていたカサンドラは、パラドックスとTVAによる虚無への不可侵条約を結んでいたが、パイロがスパイであったことでその関係は崩壊。カサンドラは時間軸を破壊することができる時間加速器を用いて、すべての時間軸を剪定しようとする。 カサンドラの目論みを止めようとするデッドプールとウルヴァリンだが、彼らの前に虚無からカサンドラが送り込んだ刺客が現れる、それは、ナイスプールやドッグプールをはじめとした様々な時間軸から集められたデッドプールの集団、デッドプール・コープス。このデッドプールたちの元ネタは、「デッドプール・キルズ・デッドプール」と名付けられた原作コミックス。マルチバースのデッドプールが集合し、善と悪に別れて戦うというエピソードであり、デッドプール同士が戦うという部分はしっかりと踏襲されている。ちなみに、わりと目立っている生首だけのデッドプールは、マーベルヒーローたちがみんなゾンビ化してしまったマルチバースからやって来たヘッドプールと言われるキャラクターで、原作コミックスでは一時はデッドプールの相棒的な存在としても活躍した。ちなみに、レディ・デッドプールを演じているのは、ライアン・レイノルズの奥さんのブレイク・ライブリーだ。 このデッドプール・コープスとの戦いで、ウルヴァリンは映画内でこれまで1度も装着することがなかった原作ではお馴染みのマスクを被る。ウルヴァリンの衣装と言えば、原作では黄色のスーツだが、20世紀FOXでの映画シリーズでは、リアリティを重視する形で黒を基調としたデザインに変更。最後まで原作準拠のスーツが登場することはなかったのだが、本作でついに着用し、さらにはマスクまで着けたことも、ここでも長年のファンの想いをもうひとつ実現させたと言えるだろう。 アクション的なクライマックスとなるデッドプール・コープスとのバトルは、『デッドプール2』から登場し、普通の人間ながらもなぜかデッドプールの相棒として活躍するピーター(ロブ・ディレイニー)が現れたことで事態は収拾。その後、ようやくデッドプールとウルヴァリンはカサンドラの暴走を止めるために、最後の身体を張った世界を救うための行動に出る。 ■本作が示した“2つのテーマ” このように、大量のネタが散りばめられる形構成された本作は、改めて振り返ると2つの大きなテーマに彩られていたことがわかる。ひとつは、MCU誕生前にアメコミ映画界を牽引し、盛り上げてきた20世紀FOXへの最大限のリスペクトを捧げつつ、しっかりとした離別宣言をすること。なかでも、旧シリーズとキャラクターたちに向けられた敬意は、作品を通してしっかりとファンに伝わっただろう。 そして、もうひとつのテーマは、「過去との向き合い、未来を見る」ということだろう。戦いを終えところに現れたTVAの管理官であるB-15に対し、デッドプールは、虚無にいた人々を元のユニバースに戻すことと、ウルヴァリンの過去の改変を望む。B-15は前者に関しては「やってみる」と約束をしたものの、後者に関しては「過去があったから、いまの彼がある」と申し出を断る。これには、劇中の設定と現実の世界に関係するメタ的要素と2つの意味合いが重ねられている。 ウルヴァリン側の視点から見ると、物語上では、過去に仲間を失ったというつらい想いをしたウルヴァリンの経験があったからこそ、本作では世界を救うことができ、ウルヴァリン自身も新たな人生と向き合うことができたということが大きな要素となっている。そして、もうひとつのメタ的視点では、20世紀FOXの「X-MEN」のユニバースはなくなったが、だからこそファンが望む新しいウルヴァリンの姿がここにあるということが示される。 一方、デッドプールに関しても、物語上では過去の想いに囚われながら、仲間のために戦う。それは、これまでのシリーズで培ってきた彼の環境や仲間がいた世界を消さないためにするための行動だった。一方、メタ的な視点から言えば、デッドプールというキャラクターがMCUで継続されることは約束されながらも、MCUに加わったことで設定変更され大切な仲間たちが消えるかもしれない状態にさらされたが、この戦いを描いたことでシリーズの基本設定は変わらずに生き残ることが暗示される。 デッドプールは現状を維持し、ウルヴァリンは失ったものを受け入れて新たな未来に目を向けるという、相反する2つの要素を持ちながらもMCUに統合されることへの不安を象徴するように描かれていたのだ。本作では、メタ的な要素を物語の構造に組み込むことで、MCUでもデッドプールとウルヴァリンが共存し、そしてX-MENの新たな世界が拓けるという状況を示しており、まさにファンもひと安心のハッピーエンドとなっているのだ。 ちなみに、ラストシーンでデッドプールの仲間たちにウルヴァリンが加わり、その隣にはローラの姿もあった。彼女は元々デッドプールと同じアース10005の住人であり、彼女が元の世界に戻ったということは、ほかのキャラクターたちも無事自分たちの時間軸に戻れたということだろう。 文/石井誠