マルチタスクが集中力を劣化させる! 資料作成しながら、メール返信、スマホ、TV…【余命10年・岸博幸】
2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』の一部を再編集してお届けする。第6回。 【画像】脳内の情報処理の仕組みを説明する図
ここ20年で、集中力はますます劣化しつつある
集中力は、子供どころか大人も、今の時代はすごく低下している。 そもそも人間の脳は、元来注意散漫である。DNAの記憶の大半は石器時代のものだといわれているが、当時は、注意散漫であることが、生存に不可欠なものだったから。 諸説あるが一説には、人間が集中できるようになったのは、600年ほど前。 グーテンベルクが印刷技術を発明し、大量の本が世に出回るようになり、本を集中して読むという、それまでとは異なる行為を繰り返すうちに、集中力が養われたといわれている。 もっとも、脳内で分泌されるドーパミンは常に新しい刺激を求めるため、ひとつのものに集中するのは難しい。それに加え、ここ20年で、集中力はますます劣化しつつある。主な原因は、デジタルの普及によるマルチタスクの常習化だ。 パソコンで仕事をしている時のことを思い浮かべてほしい。 Wordで文書を作成しながら、ネットで検索し、メールが来ればそれを開く。マルチタスクが当たり前になった代償で、ひとつのことに集中して作業できなくなっている。 ちなみに、アメリカの心理学者の実験によると、アメリカ人は仕事中に1日平均74回もメールをチェックしていた(最大は435回)。 また、マルチタスクのために一時中断した作業に戻り、再び集中するまでに23分15秒もかかっていたそうだ。これでは仕事に集中できるはずがないだろう。
脳が無意識のうちにスマホを欲し、知的能力が低下する
スマホは、さらに曲者(くせもの)だ。 魅力たっぷりのサイトやソーシャルメディアが山ほどあるので、人はスマホの画面をどんどん短時間で変えて新しいコンテンツを楽しむ。 それをプライベートの時間にずっとやっていれば、集中力は極度に低下する。 これでは、テキストの読み方も流し読みになってしまい、自分の頭を働かせ、深く考えながら読むという作業は難しいだろう。 ここで、2017年にテキサス大学のエイドリアン・F・ワード助教授らが、学生を対象に行った調査結果を紹介しよう。 ワード助教授らは、学生たちを「机の上にスマホを裏返して置く」「スマホをポケットかカバンに入れる」「スマホを別の部屋に置く」という3つの集団に分けて、作動記憶(後述)を使う問題と流動性知能を使う問題のテストを実施。 すると、双方の問題について成績が最も良かったのが、「スマホを別の部屋に置く」集団で、一番悪かったのが「机の上にスマホを裏返して置く」集団だった。 いわば、人とスマホの距離が近づくほど、集中力が低下し、問題解決能力も低下してしまったことになる。もっとも、すべての学生がテスト中にスマホは気にならなかったと回答している。 つまり、脳が無意識のうちにスマホを欲してしまい、その結果、知的能力が低下したと考えられるのだ。なんとも恐ろしい結果ではないだろうか。