いまや十数名となってしまった「元零戦搭乗員たち」の「生の証言」が映し出す「80年前の現実」
記憶を「未来」へつなげる
劇中、「もう80年以上も前になります。人間にとって、何かを忘れ去るには十分すぎる時間です」という、先ほど私が書いたのと同じセリフがあった。また、「記憶は私が未来に連れて行くから」という一節もあった。 ――不意に入ってきたそれらの言葉が私の心の琴線に触れた。「80年」という設定が、戦後80年を来年に控えたいま、絶妙にマッチしたこともある。私の胸に、脳裏に、顔も声もありありと残っている元零戦搭乗員たちの記憶を、いま私が未来につなげていかなければ永久に忘れ去られてしまう、あるいは全く別のものにされてしまう、と改めて焦燥に近い危機感を抱いたのだ。 私のほかにも、戦争体験者の記憶を継承する活動をしている知人の何人かが、「葬送のフリーレン」を見て同じような感想をもらしていた。記憶を継承する=人が生きた証を残そうとする思いの普遍性を物語るものなのかもしれない。 『決定版 零戦 最後の証言』全3巻の登場人物24名は、それぞれが私にとって忘れ得ぬ人たちだ。少し長くなるが、各人の概要を紹介しよう。 第1巻は、三上一禧、黒澤丈夫、藤田怡與藏、中島三教、岩井勉、中村佳雄、吉田勝義、土方敏夫の各氏。 三上一禧(かつよし)氏は、昭和15(1940)年9月13日、重慶上空で零戦が初めて実戦デビューしたときの13名の搭乗員のうちの1人。今回のシリーズ中唯一存命(107歳)の人である。戦後、教材販売会社を営んだ三上氏は、平成10(1998)年、零戦初空戦のさいに撃墜した中華民国空軍のパイロット・徐華江氏と東京で奇跡的な再会を果たした。 黒澤丈夫氏は、太平洋戦争の開戦劈頭、真珠湾攻撃とともに行われたフィリピンの米軍基地攻撃に参加、連合軍機を圧倒した零戦隊の名指揮官(最終階級少佐)として知られる。戦後は郷里・群馬県上野村の村長となり、昭和60年8月12日、乗員乗客524人を乗せた日航ジャンボ機が村内の御巣鷹の尾根に墜落したさいには、自らの経験を生かして救難活動を支えた。