F1分析|ノリス、2度の”一瞬”に泣き勝利を逃す。これも今季が大接戦であるがゆえ?
ノリスはタイヤ交換を1周遅らせすぎた?
このグラフは、各車がインターミディエイトタイヤからドライタイヤに履き替えた前後のラップタイム推移をグラフ化したものだ。 ◯にP印のところが、各車がピットインした瞬間を示しているが、ガスリーやハミルトン、ピアストリのコース復帰直後のペースは、インターミディエイトタイヤを履いていた時のペースとあまり変わっていないのがわかる。 これを数字にすると、ガスリー(40周目)は0.223秒、ハミルトン(43周目)は0.65秒、ピアストリ(44周目)は0.975秒、フェルスタッペンは1.476秒、タイヤをインターミディエイトからドライに交換したことでペースを上げているということ……つまり、周を重ねるごとに、コースはドライ向きになっていたわけだ。 フェルスタッペンがピットインしたことで首位を取り戻したのが、マクラーレンのノリスだった。ノリスはフェルスタッペンよりも2周ピットストップのタイミングを遅らせた結果、ピットアウト直後の計測ラップでは、インターミディエイトを履いていた当時と比べて、2.622秒もペースが速くなっている。つまりフェルスタッペンがピットインした時よりも、さらに路面は乾いていたわけだ。 数字だけ見ると、これは大成功と見えるかもしれない。しかし実際には、ピットアウト直後はノリスがフェルスタッペンの前にいたものの、すぐにオーバーテイクを許してしまい、さらにはメルセデスのラッセルにも先行されることになった。 レースペースの推移を見ると、ノリスはどうもドライタイヤに交換するのを1周遅らせ過ぎたように思われる。 グラフの赤丸の部分を見ていただきたい。フェルスタッペンはこの48周目に、1分20秒台で走っていたのだ。これは、ノリスがインターミディエイトタイヤを履いていた時より、約3秒も速かった。つまり、ノリスがドライタイヤを履いたことで上げたペースの差よりも大きかったのだ。 ここから想像するに、フェルスタッペンがピットストップしたタイミングは、ドライに変えるにはまだ少し早すぎ、ノリスは逆に少し遅すぎた……つまり46周目がタイヤ交換の最適なタイミングだった可能性がある。ノリスはもう1周だけ早くピットインしていれば、フェルスタッペンの前を抑え、マイアミGPに続く今季(そして通算でも)2勝目を手にできた可能性があったのだ。 これについては、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も認めている。 「彼らは2周長く引っ張っていた。そのことが、マックスにもう1周タイヤの温度を上げるための余裕を与えたんだ。それが重要だった。ランドがピットインした時、彼(フェルスタッペン)のタイヤは作動ウインドウに入っていて、セクター1までに3秒のギャップを奪うことができた。このタイミングが重要だったんだ」 ノリスはまさに、2度にわたって”一瞬”のタイミングを活かすことができず、勝利を逃したわけだ。 しかしそんな一瞬が勝敗を分けるほど、今季のF1は大接戦。今後も手に汗握るレースを目にすることができるだろう。
田中 健一