THE RAMPAGE・岩谷翔吾、小説家デビューのきっかけになった一冊。ダンサーだからこその言葉への憧れ
2024年10月10日に自信初の小説作品となる『選択』(幻冬舎)を発売したTHE RAMPAGEのパフォーマー・岩谷翔吾。もともと読書家としても知られている岩谷が、執筆活動を始めるきっかけになった一冊を紹介する。 【写真】岩谷翔吾、執筆中の一枚
親友・横浜流星の勧めで出会った一冊
僕は言葉に人一倍の憧れがある。それはなぜか。ダンサーだからだ。 ダンサーは、ステージ上で自分の身体だけを使って観客を魅了しなければならない。歌手が歌詞に乗せて想いを届けるように、魂から湧き出る感情を踊りに込める。言葉を超えた感動を届けなければならないことに誇りを持つ反面、言葉への尊敬が半端ではない。 だからこそ小説の世界にハマっていったのだと思う。小説とダンスは静と動でいうと相反するモノ。だから新鮮でよかったのかもしれない。 そんな僕が自分でも執筆してみたいと思う分岐点になった作品を紹介したいと思う。染井為人さんの『正体』。 先日、映画も公開されたこの作品名を耳にしたことがある人も多いだろう。主演は僕の高校の同級生である横浜流星(僕の作家デビュー作『選択』の原案も横浜流星です。ぜひ読んでほしいです。小声)。『正体』が映画化するよりかなり前に、横浜流星から「この本おもしろいから読んでみて」と勧められていた。 美容院で何気なく本を開くと、もう続きが気になりすぎてシャンプー台にまで持って行くほど集中し、一気に読破した。 なぜこれほど極端なまでに『正体』に熱狂したのか、ざっとあらすじを説明させてほしい。死刑判決を受けて収監されていた鏑木慶一が、脱獄し逃亡してしまう。彼は名前や姿を変えながら警察の手を逃れ、さまざまな場所に潜伏していく。彼は本当に人を殺したのか。彼の真の正体とはなんなのか、という物語。
僕にしか書けない小説
読後はしばらく余韻に浸っていた。苦しい。だけど、その苦しさはいくらでも耐えられる苦しさだった。人はみな、今いる場所で課せられた姿で生きていて、それに苦しめられる人もいる。だったら、正体はひとつでなくてもいい。いろんな自分がいて当たり前なのだから、正体を変えて逃げることで救われることもあるんじゃないか。 思い耽っていると、ふと自分も人の心を描く作品を書いてみたいと思った。 そこから『正体』を勧めてくれた親友である横浜流星と感想を交わしていると、彼はおもしろい提案をしてきた。 「俺らふたりでやりたいことをイチから作ってみる?」。 そんな友人のノリから二人三脚で作り上げたのが、先日上梓した僕のデビュー作『選択』である。実に4年の制作期間をかけ、渾身の一冊を作り上げることができた。ありがたいことに二度も重版がかかり、孤独と戦ったつらい日々が報われ、うれしかった。 ここから『選択』がどんな景色を見せてくれるのか。無限の可能性を秘めているなと思う。 『選択』がようやく僕の手から離れた今、早くも2作目に取りかかっている。すでに1行目と最後の文章は決めている。これは僕にしか書けないという自信もある。もう少しかたちになったら報告させてほしい。 僕が小説によって人生が豊かになったように、あなたの目に映る世界がより鮮やかなものになるように。そう信じてこれからもダンサーと小説家、相反するふたつの表現で誰かの背中を押し続けていきたい。