意外に、多くの人が知らない…「小数と分数」の決定的なちがい。じつは、「分数の方が先」に生まれた驚きの事実
小数の誕生
いまの余りを、基準1の十等分の長さ(1/10)を新しい基準として測定して、2回で測り切れたとします。そのとき、μ=3.2と表示するのが小数です。 もし、それでも余りが出れば、μ=3.2+(余り)となります。 先ほどの長さ (1/10) をさらに十等分した長さ (1/100) を新しい基準として測定して、4回で測り切れればμ=3.24と表示します。 このように十等分、さらに十等分しては、余った長さを次々と測り、一の位より右の方に右の方にと書いて表現する方法、つまり、十進位取り記数法による表示が小数なのです。 重さ、広さ、液量などの連続量も以上の手続きで小数表記をすることができます。 小数の使用は、紀元前のバビロニアの六十進数に見られます。その後も六十進数が使用されていたようですが、13世紀ごろからインド・アラビア数字が普遍的に使われることで、十進位取り記数法による現在の小数表記が発達しました。ヨーロッパでは、16世紀以降にオランダのシモン・ステヴィン(1548-1620)という人によって十進小数が考案されたとのことです。 では、つぎに「分数の誕生」を考えてみます。
分数の誕生
もう一つの表記は分数による表記です。 分数も余りを処理する表記の方法ですが、余りの数的表記の方法が小数とはまったく違います。 1ページ目の(*)のところまでは同じです。 すなわち、ある長さμを基準1で測定したところ、3回測れて余りが生じたとします。 μ=3+(余り) この余り(これをγ[ガンマ]としましょう。μ=3+γ)の数的表記を求めるために、この余りγで基準1の長さを測るのです。ここが小数表記の操作とはまったく異なります。 いま、γで基準1が5回測り切れたとします。 つまり、1 = 5γです。この余りγを1/5と表記します。よって、γ=1/5です。γは基準1を5回測り切れる長さだというわけです。 μ=3+γですので、μ=3+1/5=3 1/5と表記します。このような余りの処理の仕方によって分数が生まれてくるのです。 この操作は、基準1と最初に与えられている長さμとを同時に測り切るための新しい基準を求めているのです。それが(γ=) 1/5というわけです。 このとき、新しい基準は基準1を5回測れるので、それを1/5と表記し、長さμはこの新しい基準では16回測れるので、16×(1/5)を16/5と表記するのです。こうして、μ=3+1/5=16/5となります。 また、この新しい基準 (1/5) は、小数表示で用いた基準(1/10) で測ると2回測れるので、小数表示は0.2となるわけです。これが分数と小数の換算なのです。 こうして、 μ= 3+1/5=3+0.2=3.2 となるわけです。 分数は位取り記数法が普及していない時代に生まれた連続量の記数法であったわけです。 このように小数と分数とは測定の余りの処理の違いから生じましたが、じつは、この分数と小数に「文化の違い」が隠れているのです。どういうことか、ご説明しましょう。 ---------- 学びなおし! 数学 代数・解析編 なっとくする数学キーワード29 ロングセラー『なっとくする数学記号』の著者にして、数学教育を知り尽くした専門家だから書けた、「学びなおし」の決定版! ----------
黒木 哲徳(福井大学名誉教授)