『おいハンサム!!』の劇場版は“これがいい”が詰まっていた 伊藤家が築きあげてきた“日常”
『おいハンサム!!』が描き続けてきた家族の食事
これまでのドラマ版全16話(シーズン1、シーズン2)を通して、毎回なんらかのかたちで日常と密接に関わる“食事”が描かれてきて、シーズン2の第3話では「うな重問題」をきっかけに“食べること”の必要性が改めて説かれてきた。無論、劇中では伊藤家の朝食から夕食までの食卓の席や、大勢でカニを食べたりお土産のケーキを食べたり、出前を食べたりといった“内食・中食”はもちろんのこと、各々が外で食事をしたり酒を飲んだりというシーンが、おそらく他のドラマよりもかなり多い頻度で描かれてきた。 ところが家族5人が全員そろっての外食シーンはどうだっただろうか? シーズン1で三女・美香(武田玲奈)が大倉学(高杉真宙)と結婚する方向で話が進み、両家の顔合わせが行われる席で、伊藤家の5人は全員そろって外で食事をする。その一度きりであったはずだ。いうまでもなくそれは、娘が嫁ぐ(かもしれない、結局破談になるわけだが)という伊藤家5人の日常を大きく揺るがすだけの一大イベントである。また、源太郎と千鶴、里香で閉店する中華屋の最終日に足を運ぶシーズン1の第7話は例外としても、シーズン2の第7話で源太郎と美香がいそいそと外でモーニングを食べるシーンもまた、千鶴が風邪で寝込むという非日常に起因するものであった。 そうした非日常的シチュエーションがあって初めて訪れるはずの一家揃っての外食が、映画版では居間で5人がよく遊んでいる七並べの罰ゲームの意味合いであっさりと実現する。些細な日常の延長線で、決して劇的ではないながらも家族生活においてなくてはならない非日常が作りだされ、そこに「特別感」が見出されるのだ。しかもそれが円卓を囲むちょっぴり高級な中華料理という点も、彼ら伊藤家が築きあげてきた“日常”は、映画版という非日常的コンテンツを前にしても決しておろそかにされることはないと証明する。 “非日常”をあえて序盤に意図的に作りだして設定するからこそ、その後次々と起こる波乱に満ちたストーリーを経ても、伊藤家の面々に外的な変化があらわれることはない。よって、この映画のラストの後も、彼らの日常はいつも通りのんびりと、時折ほどよいスパイスを加えながら続くことになる。この映画のキーワードのひとつでもある表現を借用すれば、言えることはただひとつ。「シーズン3を製作してくれてありがとうございます」。
久保田和馬