「イスラム国」掃討作戦 なぜ米国はシリア介入に慎重だったか /上智大学・前嶋和弘教授
オバマ大統領の決意と今後の見通し
法的根拠が薄いまま突入してしまうのは、ブッシュ前政権のイラク戦争の二の舞のようです。そのイラク戦争を終結させることを公約としてオバマ大統領は2008年に当選しました。そんなオバマにとって、不用意なシリア介入は政治家としての基盤の根底を揺るぎかねません。 それでも、シリアへの介入をオバマ大統領が決意したことは、それだけ「イスラム国」を脅威として強く認識しているためにほかなりません。「イスラム国」の勢力拡大は、いずれアメリカ国内のテロにつながるという恐れもシリア攻撃を急ぐ背景にあります。 シリアへの介入というオバマの決意に対して、連邦議会もここまでは好意的に反応しています。「イスラム国」と戦うシリアの反体制派勢力に対する軍事訓練や武器供与を盛り込んだ軍事支援予算案も9月17、18日、それぞれ下院と上院で賛成多数で可決しました。
ただ、少数ではありますが、この法案への反対派にも注目が集まっています。反戦主義を貫く民主党内の最もリベラルな議員らが反対したのは当然ですが、「大きな国家」を否定し、他国への関与に否定的なティーパーティ運動に近い共和党の一部の議員らも声高に異を唱えました。議会の最左翼と最右翼がこぞって反政府勢力への支援に反対するという興味深い現象が起きています。 このオバマの決断がどうなるかは、まだ予断をゆるされません。空爆を行う米軍と地上での反政府勢力との連携がどうなるか、まだ読みにくいためです。もし、事態がより深刻化した場合、オバマ政権は地上軍派遣という選択肢を追求しなければならなくなるでしょう。そうすると、「地上軍は派遣しない」としたオバマの宣言は覆され、11月の中間選挙に向けて「嘘つきオバマ」というそしりも出てくるかもしれません。政治家にとって外交における言葉がいかに重要か、考えてしまうような例ですが、いずれにしろ、オバマのシリア介入がどのように展開されていくのか当分、目が離せません。 (前嶋和弘/上智大学総合グローバル学部教授)