「自分の生まれ育ったまちでウイスキーをつくりたい」大分・竹田に〈久住蒸溜所〉ができるまで
理想の条件が揃った、久住高原という土地
ウイスキーづくりの重要な要素のひとつである「水」。製造工程で粉砕した麦芽に水を加える「仕込み水」に加えて、ポットスチル(蒸溜器)の冷却にも使用するため、良質な水を十分な量確保する必要があります。久住蒸溜所では、「くじゅう連山の恵み」である豊富な地下水を活用。敷地内にある2か所の井戸は、仕込み水、冷却水の両方に使われています。 さらに、標高およそ500メートルと高い場所にあるため比較的冷涼で、原酒を穏やかに熟成させる環境が整っています。久住高原は、宇戸田さんご自身が生まれ育った土地でもありますが、奇跡的に「ウイスキーづくりに適した土地」だったのです。 「緑の美しい高原、久住山、清冽な水の溢れるすばらしい場所です。大きな変化がないのがいいところではありますが、若い方々にとっては刺激に乏しい場所ということかもしれません。ただ、ウイスキーづくりをするうえでは理想的な場所だと今も確信しています」 緑のパノラマが広がる久住高原は、「野焼き」が有名な場所。環境省の「かおり風景100選」にも選ばれています。野山を草地として利用するため数百年にわたって続けられている営みのように、ウイスキーづくりも、久住町の変わらない風景になるのかもしれません。 ■世界一の蒸溜所、世界一のウイスキーを目指して これからの具体的な取り組みについて伺うと、「特にあれこれしようではなく、日々淡々と、愚直にウイスキーづくりに向き合うことだけです」と宇戸田さん。 「ジャパニーズウイスキーの現在の人気が高い功績は、全て先達の長い努力によって培われたものです。それは彼らに向けられた称賛の声であるということを、私たちは決して勘違いしてはならないと、日々諸先輩に学び自らを磨くことしかできないと思います」 10年後、100年後もウイスキーづくりを続けていけるよう地道にトライアンドエラーを繰り返す日々の中、目指すものは、“久住らしさ”を持つウイスキーです。 「いつの日にか、“久住らしさ”とはこのような味わいだといわれるようなハウススタイルが生まれることを願っています。理想としては、淡く滋味深い長期熟成のスぺイサイドモルトを彷彿とさせるような一滴が生まれれば本望です」 ※スペイサイドモルト:スコットランドのハイランド地方にある、スぺイ川周辺にある蒸留所で製造されるモルトウイスキー。ウイスキーの聖地とも呼ばれている。 最後に、久住蒸溜所のシンボルマークについてうかがいました。縦と横のラインを組み合わせたシンプルかつモダンなデザインに込められた思いとは? 「濃紺の横の4本は、久住の水、大麦(を含む原料)、人(スタッフ、飲み手、これまで応援していただいた人々)、そして久住の環境の4つを意味しています。縦の3本は、横の4本の要素を全て合わせて『醸す(発酵する)・蒸留する・樽で熟成する』という3つの工程を意味します」 数多くの困難を乗り越えながら、土地の良さと人の力を生かしてつくられた、久住蒸溜所のウイスキー。大分の大自然に思いを馳せながら、味わってみませんか? information 久住蒸溜所 住所:大分県竹田市久住町大字久住6426 Instagram:@kuju_distillery Web:久住蒸溜所 ※2024年7月現在、蒸溜所見学は承っておりません。 Haruko Sato 佐藤 はるこ さとう・はるこ●福岡生まれ、福岡育ち。成人してから引っ越した回数は10回以上。日本各地を移動しながら、2010年からフリーランスのライターとして活動。建築、都市、まちづくりに興味あり、音楽やアートの話が好き。人から話を聞くのがとても好き。 【コロカルニュース】とは? 全国各地の時事ネタから面白情報まで。コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。