武田砂鉄が問う裏金問題──「いつまでやってんの」を作り上げる自民党の作戦
自民党の十八番、「このまま忘れてもらおう作戦」を許すな! 【写真を見る】裏金問題を派閥問題にすり替える人たち
武田砂鉄が自民党の作戦に警鐘を鳴らす!
自民党裏金問題を「政治資金問題」と書くメディアと、自分たちの体制を改めるための会議を「政治刷新本部」と銘打つ自民党は一致団結しているのかもしれない。自民党の問題なのに、「政治」全体の問題に膨らませている。自民党への不信ではなく、政治全体への不信ならば、自民党は歓迎する。かつて、森喜朗が「(選挙に)関心がないと言って寝てしまってくれれば、それでいいんでしょうけれども……」と述べたように、無党派層が政治を諦めてくれれば、いつもの固定客を相手にすれば済むからラクチンなのだ。 3年前に出した時事コラム集『偉い人ほどすぐ逃げる』(文藝春秋BOOKS)の「はじめに」にこのように書いていた。 「国家を揺るがす問題であっても、また別の問題が浮上してくれば、その前の問題がそのまま放置され、忘れ去られるようになった。どんな悪事にも、いつまでやってんの、という声が必ず向かう。向かう先が、悪事を働いた権力者ではなく、なぜか、追及する側なのだ」 「無賃乗車が横行する駅の改札で、警戒する駅員に『いつまでやってんの』と言う客がいるだろうか」
書籍タイトルも含め、現在の議論にそのまま当てはまってしまう。自民党が裏金問題を派閥問題に切り替えたのは、この「いつまでやってんの」を作り上げるためだ。この派閥は解散します、こっちの派閥は解散しません、政策集団として機能させていきたい、いずれまた集まることもあるかもしれない……こういった意見が紹介される。自民党内が混乱している様子を伝えているうちに、裏金の話が徐々に遠ざかっていく。 自民党・大岡敏孝元副環境相は、自身が所属している二階派が解散を決めたことについて、「感覚的には卒業。みんなで卒業したという感じだ」と述べた。問題を薄めようとする姿勢がしっかりと見えてくる発言である。アイドルが辞める時を筆頭に、転職を決めた人の投稿などでも「卒業」と記す場面が散見されるようになったが、そこに対して、「えっ、うまくいかなかっただけでは?」と疑問視する声が向けられる。問いかけに答える必要はなく、だからこそ「卒業」は便利なのだが、今回の場合、疑問視するまでもなく悪事がハッキリしている。それなのに「卒業」で誤魔化そうと試みている。これまで慎重に「卒業」を使ってきた人たちに謝ってほしい。 杉田水脈議員は1月21日に「清和会総会、解散等について」と題したブログを更新、そのブログで初めて、「不記載」があったことを認めた。ブログは「一昨日は予定を早めて朝の便で上京し、清和研の若手有志の会に参加。派閥の解散や今後のことについて意見交換し、幹部に対する決議案をまとめました」と始まる。そして、「安倍派も解散へ」という速報が流れたのを知り、「その文字を見て、泣きました」とのこと。 そこからの内容が急展開。「翌日は朝一の便で山口に戻り、気持ちの整理もつかないまま、仕事をしていますが、私の事務所においても不記載があったことがわかり、派閥の指示に従って、収支報告書の修正を行う予定としております」と続く。読んだ人が当然思うのは、「え?え?え?不記載はいくらだったの?」だ。でも、語らない。気持ちの整理はいいから、経理の整理をしてほしい。いや、「不記載があったことがわかり」なのだから、整理は終わっているのか。わかった内容を公表するべきなのだが拒む。どれくらいの額だったのか、なぜ不記載だったのか、それがわからなければ、こちらこそ気持ちの整理がつかない。 「無賃乗車が横行する駅の改札で、警戒する駅員に『いつまでやってんの』と言う客がいるだろうか」というたとえを使って、今、自民党に起きている状況を表すならば、「組織的に無賃乗車を繰り返してきたものの、ついに見つかってしまい、駅員から『君たちは、いつからどれくらいやっていたんだ?』と問われているものの、『はい、一旦、このグループを解散したいと思っています』と返している」状態。駅員、さすがに怒ると思う。 拙著『偉い人ほどすぐ逃げる』のオビ文にはこのようにある。「『このまま忘れてもらおう』作戦に惑わされない。」、編集者が考えてくれたタイトルとオビ文だが、秀逸だったなと思う一方で、4年経っても変わらない、むしろ、露骨になっていることにうなだれるのである。
武田砂鉄 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。 編集・神谷 晃(GQ)
文・武田砂鉄