駐韓日本大使の「一時帰国」が続くとどんな影響が出る?
韓国駐在の日本大使が不在になったまま、1か月以上がたちました。釜山の日本領事館前に新たな慰安婦少女像が設置されたことを受けた措置で、今回は「一時帰国」ですが、外交関係においては「大使の召喚」というステイタスもあります。それらはどう違うのか。また、大使が不在で日韓関係や現地の交流においてどんな影響が考えられるのか。元外交官の美根慶樹氏が解説します。 【写真】朴槿恵大統領の弾劾案可決 「慰安婦合意」が覆ることはあり得るのか
「召喚」とは違う「一時帰国」
慰安婦少女像をめぐって日本政府が長嶺駐韓大使と森本在釜山総領事を1月9日に一時帰国させて1か月が過ぎました。ソウルの日本大使館前に像が設置されたのが5年前の2011年、日韓両政府が慰安婦問題の最終的解決に合意し、韓国政府が慰安婦少女像について「適切に解決されるよう努力する」と明言したのが2015年、そして釜山の日本総領事館前に新しい像が設置されたのが昨年。5年以上もこの問題は未解決となっており、しかも状況はさらに悪化しています。 長嶺大使らを一時帰国させたことについては賛否両論がありましたが、日本政府は長く我慢を強いられてきたことであり、韓国政府に強く抗議し、また迅速な対応を促すためにやむを得ないことだったと思います。 大使の一時帰国について国際的なルールはありません。日本は2010年にロシア・メドベージェフ大統領(当時)が北方領土を訪問した際や、2012年に韓国・李明博大統領(同)が竹島を訪問した際に大使を一時帰国させたことがありましたが、1週間前後で帰任させました。 なお、大使を「召喚」することもあります。これは一時的な措置という意味合いはなく、外交関係断絶に発展してもやむを得ないという覚悟で呼び戻す場合に使われることが多いです。これに比べれば、「一時帰国」は単に事務的な理由からも行われることなので深刻な事態とは限りません。
協議で会える人が「格下」になる恐れ
しかしながら、長嶺大使らをこれ以上日本にとどめておくのがよいか、疑問です。 大使は少女像問題の解決だけが任務なのではありません。長嶺大使らは日本国を代表し、韓国において日本に対する理解の増進を図り、また、日本が韓国を正しく理解するよう努めることが任務です。さらに、日本と韓国の間の経済・文化交流の状況をしっかりとフォローし、必要に応じて対応しなければなりません。たとえば、日本側が不利になることがあれば韓国政府と協議して正さなければなりません。そのため、大使や総領事は大統領以下の韓国政府要人と常に意思疎通をよくしておくことが必要です。 長嶺大使が一時帰国している間、ソウルの日本大使館では公使が大使の代理となっていますが、それはあくまで臨時の措置であり、どんなに頑張っても大使のようなわけにはいきません。大使は一言でいえば日本を代表していますが、公使は大使を補佐するのが役割であり、その違いは非常に大きいです。北朝鮮によるミサイル発射のような挑発的行動への対処の面で日韓両政府は常に連携、協力し合っていますが、大使が不在であると韓国政府のハイレベル要人との協議などにも困難が生じるでしょう。会える人も格下になる恐れがあります。要するに、困難な問題であるほど大使が外相など韓国政府の責任者と直接交渉して解決策を探る必要があるのです。 また、長嶺大使らが長期間任地を離れていることに韓国民の間でも不満の声が上がっています。少女像の問題を別にすれば、韓国民がそのように思うのはもっともな面があります。