作家・西加奈子 両乳房を切除に迷いなかった 【菅谷大介、がんを知る】シリーズ 第2回
■“両乳房切除” “再建もしない” 決断できたワケ
日常のわずかな出来事に救われながら治療を続けてきた西さん。その中で強いられた大きな決断が『両乳房を切除』でした。作品では“乳房を切除するコト”そして“胸を再建しない”という決断が、ありのまま描かれています。その判断ができたのは、がんを経験したからこその強い思いがありました。
西:きっとどこかで、例えばこういう体の状態で、私は女としてどうなんだろうということが少しでもあったら迷っていたと思うんですけど、一切そう思わずにすんだんです。他の人が「女でいたいんだったらこうあるべき」って言おうがそれは家族であろうが医師であろうが、知らん。 もちろん乳がんになった人みんな取ったらええやんではない、それはほんと人それぞれなので、私の体がどうありたいかだから、私の体の声、心の声にきちんと向き合って「オッケーもういらんな」って思いました。 菅谷:西さんの本を読んでいて確かにそうだよなと思ったのは「恐れ」なんですよね。手術の前や治療後の「恐れ」の話もされていたじゃないですか。そこの所がすごく共感できて。 西:治療が全部終わった時に本当におめでとう新しい人生やなって祝福してくれて、めちゃくちゃうれしいんですけど、どうしても「怖さ」がぬぐえなくて。朝起きたら不安なんです。なんでこんなに不安なんだろう?治療終わっているよな?子供も元気、 猫も元気、夫も元気 何がこんなに怖いんだろうっていう感じで本当に手探りで一日を始めるという感じだったので、これも書きたいというか、それがどういうことなのかというのを自分できちんと知りたいという思いがすごくありました。 菅谷:この不安ってぬぐえないですよね?どうやって乗り越えるんですか。 西:とにかく治療中もちろん治療後にも心がけていたのは「恐れ」を感じた時にとにかくその「恐れ」を抱きしめて向き合うっていうことを自分に課したんです。それは人それぞれのやり方だと思うんですけど、例えば自分は「怖いな、何が怖いんだろう、こういうことが怖いんや、じゃあ何でそれが怖いの、そう思ってんねんや」とどんどん解体していく。とにかく「恐れ」と向き合うということをして。この「恐れ」は誰かから与えられたものではないですよね?自分の体で作ったものなのでそれもやっぱり尊いんですよ。なので幸せやって思う感情と同じくらい「恐れ」も愛すべきというかきちんと感じるべきだと思ってすごく向き合って自分のものにして今ここまで来ているという感じですね。