「大都会の狭間にぽっかりとあいた異様な空間」...アパホテルが騙された12億の地面師事件の現場となった土地の”奇妙な変遷”
“10億越え”の好物件
「なぜ赤坂2丁目の一角のここだけ、ビルが建っていないのか、ビジネスホテルでも建てれば繁盛するだろうに」 そう感じたのは、むろん私だけではなかった。 外国人観光客によるインバウンドでにぎわってきた東京の都心は、ひと頃、極端なホテル不足に陥った。ビジネスホテルを中心に全国に400近い宿泊施設をチェーン展開してきたアパグループが、この土地に目を付けるのは、むしろ当然といえたかもしれない。知り合いの不動産業者に評価を求めると、百坪あまりの土地の価値だけで10億円をくだらない、と口をそろえた。それほどの好物件といえる。 不動産登記上の「所有権保存」者、つまりもとの“駐車場”の地主は、港区麻布竹谷町(現在の南麻布)に住んでいた鈴木善美となっている。1967年7月、そこから銀座の「鈴木保善株式会社」に売却されたことになっている。鈴木保善という社名は、おそらく社長の善美から付けたのだろう。地主である鈴木家の資産管理会社だ。
所有権は地主から老舗料亭へ
善美が亡くなったあとの1969年8月、鈴木保善は同族会社の「有限会社万安樓」という会社に吸収合併され、登記上も69年8月に有限会社万安樓に所有権が移っている。「万安樓」は鈴木家が経営してきた銀座の老舗料亭である。 かつて木挽町と呼ばれた現在の銀座一丁目あたりにあった万安樓は、鈴木家が明治15年に創業した。高い黒塀で囲まれた高級日本料理店だ。広大な屋敷のなかでは夜な夜な日本を動かす政財界の宴席が開かれてきた。 そこを三菱地所が買い取り、銀座初の25階建て高さ95メートルの高層マンション「銀座タワー」として開発した。敷地を売った鈴木家に残った資産は計り知れない。その鈴木家の資産管理会社として存続してきた万安樓が、赤坂の月極め駐車場を管理してきたのである。 ところが万安樓に土地の所有権が移ってから44年も経た2013年8月7日、とつぜん駐車場の売買登記がなされた。有り体にいえば、それが今度の事件のはじまりだ。 『「10億越えの好物件」を相続したはずの「資産家兄弟」が行方不明...赤坂2丁目の駐車場が《アパホテル地面師事件》の舞台に選ばれた衝撃の「経緯」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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