東工大・益学長が指摘する「この国の崖っぷちっぷり」、いま女子枠を設置しないと30年に加えてもう10年失う
6月に発表された2023年のジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中125位と記録的低位をマークしました。報道がご記憶にある方も多いでしょう。 【画像】1位アイスランドと116位日本「いちばん差がついたのは」 日本は女性研究者比率が低いことでも知られますが、原因の一つは理工系学部への進学率の低さ。男性28%に対し、女性は約7%と低く、大学院進学率も低い状態が続いています。背景には「女性は理系分野が苦手」というアンコンシャスバイアスのほか、「中学高校で理系分野の教師に女性が少なく、ロールモデルを描きにくい」ことも指摘されます。 そんな中、理系大学の最高峰・東京工業大学が2022年11月「女子枠の設置」を打ち出して話題をさらいました。同大の益一哉学長は「この国の失われた30年が作り出された原因」の一つに女性活躍の欠如があったと指摘します。「この数年が本当に最後のチャンスだ」という警鐘は、同時に女性に対して一層の努力を促す言葉でもあります。余すことなくお伝えします。
女性が増えないのではなく、「増やすことに失敗した」のが日本の現実です
――東京工業大学(以下東工大)は、理工系分野以外の方にはなじみが薄いかもしれません。「文系と医学部のない総合大学」であり、理工系大学ではリーダーポジションだと認識されています。 私は、長年大学に勤めましたが、ずっと研究所に所属していました。研究を軸にして教育をしてきた人間ですので、多くの場合「研究者です」と名乗っています。 そもそもの話、私が研究を続けてきた40年の間、日本はずっとおかしかった。 ――どういう点がでしょうか? まず、日本では大学を高校の出口、社会に入る前の教育機関としてしか考えていませんよね。 大学はもちろん教育機関なのですが、同時に国立大学の多くは「研究大学」とも呼ばれる研究機関です。研究の使命を一般論で語ると発散しますが、工学分野であれば産業界に直接的あるいは間接的に役に立つことが求められます。研究大学はその研究の過程で教育も行う機関なのであって、高校と同じ教育専門の機関ではない、この点を認識するところから始めたいのです。 ――なるほど。日本の大学には何かしらの特殊性もあるのでしょうか? はい、いろいろあるのですが、たとえば学生の構成です。東工大は学生約1万人、教員約1100人、事務や技術の職員約600人で、学生約1万人の半分以上は大学院生です。世界にその名をとどろかせるマサチューセッツ工科大学、MITも学部よりも大学院のほうが大きい。社会に貢献しようとする大学、とりわけ理工系分野では、研究をする大学院のほうが大きく、さらに言えば博士課程学生が多い。 ですが、国立の総合大学では、東工大と同規模の大学院を持つ大学もありますが、博士課程学生が根本的に少ない。これでは研究機関である大学が産業界に直接役に立つという使命を全うできません。 ――しかし、ジェンダーギャップ指数を見ても、日本女性の大学進学率そのものはそこまで男性に劣りません。理系分野に進学しない点が問題? 私は80年代から集積回路や物理の国際学会に出席を続けています。海外ではこうした学会にも女性が普通に出席しています。でも、日本では見事なまでに男性ばかりです。海外は普通に女性研究者が発表をしている中、日本にはそもそも女性研究者がいない。男ばっかり。この違和感を、80年代、90年代、私はずっと持っていました。 最初は海外だって、女性研究者は少なかったのです。その後、海外では女性が増えた。日本だけが増えなかった。いや、日本も80年代は男性ばかりでしたが、90年代に生命理工学などの発展で少し女性が増えました。ほぼ0%だったのが2000年までに10%台まで伸びたものの、それ以降が頭打ちになってしまった。 いっぽう、世界では理工学分野でも女性の比率がぐんぐん伸びました。たとえばアメリカのアイビーリーグは70年代はほとんど男子学生しかいなかったし、MITだって女性比率は低かった。でもアメリカは多様な人種の国だから、アファーマティブアクションを本気でやりました。苦労して苦労して、女性比率を増やすために女子大と合併したり、女性へのエンパワメントに大変な労力を払い、努力して女性を増やしたのです。