半年後に迫ったマイナンバーカードと健康保険証の一本化が経済合理的に正しい背景とは「年間約1000億円のコストが解決する可能性も」
60歳からの知っておくべき経済学 #3
セキュリティ面への不安から、苦戦を強いられている「マイナンバーカード一体型 保険証」。しかし、年金制度の問題点と解決策という視点でみると一本化されることが望ましいという。 【画像】「健康保険制度」の運営が難しい理由 なぜ経済合理的に正しいのか分析した『60歳からの知っておくべき経済学』より一部抜粋、再編集してお届けする。
年金制度の問題点と解決策
現在の年金制度には問題もある。ここでは二つの事例を紹介しよう。 一つめは、2016年に問題となった「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)だ。GPIFは、国民年金と厚生年金の年金積立金を運用する組織である。かつて問題とされた理由は、5兆円を超える運用損失を出したからだ。 もっとも、株式の運用には、上昇もあれば下落もある。民主党政権下では、経済不況により運用利回りが低くなったが、安倍政権が発足した後は回復した。2016年は、その利回りが一時的に下がっただけで、その後に株価は上昇して再び収支が好転した。 トータルでみれば、市場運用開始以降の2001年度から2023年度第2四半期までの収益率は年率プラス3.91%、累積収益額はプラス126兆6826億円(うち利子・配当収入は49兆2195億円)と着実に資産を積み上げており、運用資産額は219兆3177億円となっている。 とはいっても、GPIF自体は根本的な欠陥を抱えており、筆者としては不要な組織だと考えている。その欠陥とは、GPIFによって運用されている積立金の原資が、本来は存在しないはずの公的年金の積立金である点だ。公的年金は賦課方式なので、積立金があること自体がそもそもおかしい。 もし年金を積立方式にした場合、インフレによるお金の目減りに備えて、積立金を株式などで運用する必要がある。しかし、現在の公的年金は賦課方式で、物価スライドの仕組みを取り入れており、インフレヘッジをしているので問題はない。 百歩譲って、どうしても公的年金を市場で運用するのなら、株式ではなく、インフレ対策として「物価連動国債」での運用が適している。ただし、GPIFの運用が全体に占める割合は小さいため、問題が生じても年金制度が破綻する心配はほとんどない。 二つめの問題は「徴収漏れ」だが、これが最も厄介で、早い話が「脱税」だ。 そもそも、日本の年金は全国民が加入する「皆保険」制度であり、その意味では社会保険料は税金と同じ性格のものだ。 年金保険料は本来、全ての滞納者に対して強制徴収されるべきだが、これまでは年金保険料を納めていなくても、強制徴収されることはほとんどなかった。そのため、「年金保険料は払わなくていい」と思っている人も少なくないが、それは大きな間違いだ。 そもそも「未納」という表現が正しくない。「滞納」こそが正しい表現で、意図的に滞納しているのなら、それはもはや脱税だ。 保険原理からいえば、年金財政が厳しくなった際には、税の投入ではなく保険料の引き上げが適している。だから、まずは歳入庁を創設して、税と社会保険料を一体的に徴収し、社会保険料の取りっぱぐれを減らす必要がある。